2020年6月1日に公開された西日本新聞の記事で、ルーのみならずご飯まで真っ黒なカレーが紹介されていた。記事によると、なんでも真っ黒いカレーは陸上自衛隊・飯塚駐屯地の食堂で提供されているらしく、駐屯地の「名物メニュー」らしい。

その強烈な見た目に興味を抱いた私は、自衛隊とコンタクトを取って話を聞いてみることにした。さらに、真っ黒カレーのレシピを見て実際に作ってみたので、以下で紹介したい。

・真っ黒いカレーについて

今回、私に教えてくれたのは陸上自衛隊・飯塚駐屯地(福岡県飯塚市)の広報。お話によると、カレーの名前は「ボタ山カレー」と言うそうで、2008年に飯塚駐屯地業務隊の隊員らが開発したとのこと。


もともとは厳しい訓練に励む隊員の士気を高めるために開発されたらしく、見た目は全く意識されていなかったらしい。そのためか、新聞やSNSなどで取り上げられて話題になった時は、「びっくりした気持ちと嬉しさが半々だった」という。

ちなみに、「ボタ山カレー」のボタ山とは、石炭の採掘に伴い発生する捨石の集積場を指す。そのイメージに合わせるため、随所に工夫が施されていることが最大の特徴だ。


たとえば、色を黒くするために、食用の竹炭粉末をお米に混ぜて炊いている。さらに、石炭に見立ててトッピングされているのはサイコロステーキ。炭坑節の山にかかるお月さまは、目玉焼き。……というように、炭鉱が盛んだった飯塚・筑豊を表現できる一品に仕上げられているから、地元愛に満ちたカレーと言えるだろう。


・隊員の間で人気

そのような努力の成果か、ボタ山カレーは平成30年・令和元年の隊員嗜好調査でベスト10に入っている人気メニューだという。担当者いわく「私的にですが、ボタ山カレーの日はモチベーションが上がります」だそうだ。

また、開発当初から現在まで盛り付けが変わっていないこと、辛そうに見えるが、意外なことに「ルーは香辛料のスパイシーさとマッチするよう甘めのものを使用している」ことも記載しておこう。


・材料

それでは、ボタ山カレーを作っていきたい。作り方だが、実はレシピが同駐屯地のTwitter アカウントにて公開されている。


材料を見ると、一般的なスーパーで購入できる食材も多い。ちなみに今回、妃湯(フエイタン / ※鶏骨や鶏肉を主体に煮出したもの)が手に入らなかったので、鶏ガラスープで代用した。


・調理

主な工程は4つ。また、それとは別に重要な3つのコツも記されている。さっそく作っていくとしよう。


・1:マーガリン、おろしニンンク、タマネギをよく炒める


タマネギをスライサーで切り、マーガリンとおろしニンニクを加えてじっくり炒め続けると、1時間ほどできれいなあめ色になった。「タマネギはあめ色になるまでじっくりと」と1つ目のコツにも書かれており、最初の工程から重要のようだ。


・2:サイコロステーキはステーキスパイスを揉みこみ、鉄板で焼く


ステーキ肉にスパイスをしっかり揉みこんで、フライパンで焼き目がつくまで焼く。この工程では豊潤な肉とスパイスの香りがあたりに立ち込め、食欲をそそられる。ステーキだけ食べても美味しいはずだ。なお鉄板がない場合は、スチコンで蒸気を少なめにして焼こう。


・3:その他は普通のカレーの作り方と同等


「その他」で済ませるあたり、ずいぶんラフなレシピな気がするが……。ジャガイモ、ニンジンを小さく切って鍋で炒める。ここでサイコロステーキの食感を強調したい人は、ジャガイモ、ニンジンをステーキより小さ目にするといい。


そこに、「1」で作ったあめ色タマネギ、ステーキ肉とは別に用意したカレー用のお肉、妃湯代わりの鶏ガラスープ、水、カレールー、臭み消しのローレルを入れ、鍋の蓋をして40分ほどコトコト煮込む。なお、レシピではローレルと書いているが、ローリエと読み方が違うだけなので、どちらを使用してもいい。


・4:火を止めたあと、最後にマサラ黒カレーを加える

「3」で出来上がったカレーを黒く染めるべく、一旦火を止めてマサラ黒カレーを投入する。2つ目のコツとして「黒マサラカレーは火を止めてから加えてください」と念押しされており、火を止めることは重要らしい。どうやら、加熱しながらだとマサラの風味が飛んでしまうもよう。


以上で1から4までの工程が全てが終了……なのだが、大切なものがない気がする。ご飯だ。真っ黒なご飯のレシピがどこにもない!


……と思ったら、3つ目のコツとして「食用の竹炭は炊く直前にしっかりと混ぜ合わせる。竹炭を早く入れすぎると米が固くなります」と記載されているので、竹炭を足す以外は通常と全く同じように米を炊くことにした。おそらく、炊飯は簡単なのでレシピに記載する必要もないということだろう。


米と押麦を入れて、普段と同じ分量の水を張る。その中に、レシピの通り1人分あたり竹炭2gを加えた。それにしても、真っ白な米に真っ黒な竹炭が乗っている光景だけを見たら、とてもじゃないが食べ物とは思えない。


それらをよく混ぜたら、当然ながら真っ黒に。そして、そのまま炊飯器のスイッチを押して待つこと50分。フタを開けたところ……



まさに真っ黒!


これで終わり……と思いたいところだが、レシピに触れられていなかったものがまだある。目玉焼きだ。炭坑節の山にかかるお月さま。それを作れば完璧。ちなみに、レシピに記載されている材料の中に「とろっとまるオムレツ」とあるが、調べてみたところ業務用の目玉焼きだったので、手作りでも市販されているものでも構わないようだ。


とにかく、目玉焼きをお皿に盛り付けて、ピンクペッパーで飾り付けをしたらようやく完成だ。


・味の感想


カレーのルーは、甘さもありスパイシーさもある。味が複雑で奥行きのある欧風カレーといった趣向で美味しい。好き嫌いが分かれる感じではなく、老若男女誰もが楽しめるカレーだと思う。ステーキや目玉焼きなどのトッピングも含めるとかなりのボリュームだが、飽きることなくさらっと食べられた。

見た目にインパクトのある真っ黒なご飯は、若干竹炭の味を感じるものの、カレーにはよく合う。見た目ほど違和感はない。ただ、竹炭が水分を吸ったおかげで、良く言えばさっぱり、悪く言えばパサッとしている。個人的には、色味も含めて今回のようなドロッとしたカレーには合うだろうが、スープ系などのカレーは合わないのではと感じた。

一点だけ気を付けていただきたいのは、食べると歯や唇が黒くなることだ。私は家族が笑い出すまでまったく気がつかなかった……。美味しいだけでなく家庭の笑顔まで増やしてくれるとは、本当に素晴らしいメニューである。


というわけで、味は万人受けするであろう「ボタ山カレー」。レシピ通りに作ってみるのもオススメだが、陸上自衛隊飯塚駐屯地では「ボタ山カレーツアー」というイベントを一般向けに行っている(申し込み制)。現在は新型コロナウイルス感染防止のため中止しているが、再開はサイトなどでお知らせする予定とのこと。興味がある方は、本場の味を堪能してはいかがだろうか。


参照元:西日本新聞「自衛隊の名物カレー ツイッターで反響」、陸上自衛隊飯塚駐屯地 ボタ山カレーレシピ、Twitter
@JGSDF_IIZUKA
Report:Kg
Photo:陸上自衛隊飯塚駐屯地,used with permission. / RocketNews24.
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▼こちらが公式レシピ

▼真っ黒すぎてひいた……。

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