今、何かと話題の炭水化物抜きダイエット。ご飯やパン、パスタ等を控えて減量しようというアレだ。中には寿司店でシャリを残す人までいるらしいが、そんなことより個人的にどうしても気になるのは健康面での影響である。

なにせ、「バランスの良い食事が大事」的なことはあまりにもよく言われることだから。それなのに、炭水化物を抜くって…………大丈夫なの? 気になったので、医師に聞いてみた

今回、私の質問にこたえてくれたのは、今まで何度も禁煙の相談に乗ってくれたお茶の水循環器内科の院長・五十嵐健祐先生。その質問と回答は以下の通りである。


私:「最近、炭水化物抜きダイエットが流行っていますね。単刀直入にお聞きしますが、健康面の影響はどうなのでしょう?」


先生:「炭水化物抜きダイエット(糖質制限ダイエット)に関しては、近年急速に注目を浴びているのですが、医師によって意見が分かれる部分があります」


私:「つまり、先生によっても意見が分かれるってことは……否定的な見解を示す先生もいるってことですね?」


先生:「はい、まだ長期のデータがないので、色々と意見が分かれているのが現状です。ただ、私個人としては「糖質制限はほどほどであれば良いのでは」と考えています。

また、炭水化物制限の食事を実践している人で、血糖が改善しているケースを臨床的に経験することもあります。例えば、検診で初期の糖尿病・糖尿病予備軍と言われた方が運動をして、なおかつ炭水化物の摂り過ぎに気を付けると、その後に血糖が基準範囲まで改善したというケースはしばしば経験します」


私:「お! 問題ないんじゃないですか!」


先生:「と、言いたいところなのですが、「100%問題ない」と言い切れるわけではないんですよ。なぜかと言うと、特定の食事療法が健康に良いかどうかを判断するためには、1年や2年ではなく、10年20年という単位で長期的にも問題がないかを検証する必要があるからです。

しかし、日本で炭水化物抜きダイエットがブームになったのはここ数年のことでして、そういう食事を長期間行うことが本当に安全なのかどうかを検証した長期のデータがまだ無いんです」


私:「……」


先生:「つまり、「炭水化物を減らした食事を長く続けても大丈夫ですよ」と言い切れるだけの長期の検証データが現在のところ無いということです。事実、日本糖尿病学会は、2013年に発表した『日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言』の中で、以下のように述べています。

「糖尿病における炭水化物摂取について 肥満の是正は、糖尿病の予防ならびに治療において重要な意義を有する。体重の適正化を図るためには、運動療法とともに積極的な食事療法を指導すべきであり、総エネルギー摂取量の制限を最優先とする。

総エネルギー摂取量を制限せずに、炭水化物のみを極端に制限して減量を図ることは、その本来の効果のみならず、長期的な食事療法としての遵守性や安全性など重要な点についてこれを担保するエビデンスが不足しており、現時点では薦められない」


私:「分かりやすく簡単に言うと、日本糖尿病学会は「極端な糖質制限は推奨しない」と言っているということでしょうか?」


先生:「はい。また一方で、日本糖尿病学会は「社会的なコンセンサスを得る上においても、今後日本糖尿病学会として積極的に調査・研究の対象とすべき課題である」と、今後の重要な研究テーマであるとちゃんとコメントしています。

つまり、日本糖尿病学会は「炭水化物を制限しての減量は科学的根拠が不足しているから、安全性については慎重に判断すべき」という旨の声明を出したりしています」


私:「なるほど……」


先生:私自身、極端に炭水化物を減らした食事を摂ったりして、すごく栄養バランスが偏ってしまった糖尿病患者さんを経験しています。今医療現場で問題になっているのですが、極端な糖質制限の結果、脂質摂取が過剰になり脂質異常症を発症してしまったり、塩分摂取が過剰になり高血圧症を発症してしまったり……。

本人は健康のためにやっているつもりが逆効果、不健康になってしまっているケースもあります。また、急激な糖質制限ダイエットを始めたのはいいのですが、続かないでリバウンドしてしまい、血糖がダイエット前の状態よりも悪化してしまった糖尿病患者さんも経験しています。

そのような状況があるので、食事療法に詳しい医師や管理栄養士など栄養や食事の専門家に相談しながらが安全かと思います


私:「何事も極端にやりすぎるのはよくないんですね」


先生:「どんな食事療法も続かないものでは意味がないですからね。一方で、見方を変えると、患者さんが「炭水化物を抜くのってどうなんですか?」って医師に聞いてくるってことは、「自分の食生活を改善しよう。暴飲暴食を改めよう」という意識の現れでもあるかと思いますので、そういう意味では大事な一歩だと思います。

なので私は「炭水化物を抜くなんてダメだ」と否定するのではなく、先述のように「ほどほどであれば良いと思いますよ」と答えて、現在の食事習慣・運動習慣・生活習慣を把握し、どこから改善出来るか、一緒に考えるようにしています。食事療法は多岐に渡り、奥が深いので、またお話しましょう」


──以上である。

超ざっくりまとめると、「ほどほどが大事」ということに尽きるだろう。また、あまりにも極端な栄養バランスの食事にならないよう気をつけることはもちろん、炭水化物抜きダイエットを長期間続けた際の安全性にまつわるデータがまだ無いことも、覚えておいた方が良さそうだ。

・一応、炭水化物抜きダイエットやってた

ちなみに私は、特盛ライスを大盛りライスにするオレ流・炭水化物抜きダイエットを最近まで実践していた。

結論から言うと体重は全く減らず、逆に増えてしまったが、「食生活を改善しなければいけない」という意識は強い……と思う。つまり、エンジンはかかっているのだが、まだアクセルを踏んでない状態だ。

今回、先生に話を聞いたことで “周囲の安全確認” も終わったことだし、そろそろサイドブレーキを解除し、本気でアクセル踏もうかと思う。その結果どうなるのか? つまり本気のダイエットをしてどれだけ痩せるのかは、また追って報告しよう。すごいことが起きる……気がする。

協力:医療法人社団 お茶会お茶の水循環器内科
参考リンク:日本糖尿病学会「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」
Report:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.