2019年11月28日に発売が予定されている、富士フィルムの『X-Pro3』。X-Proシリーズの実に約3年ぶりとなる新型モデルです。ストリートフォトグラファー好みの尖った特徴を持つこのシリーズですが、待望の X-Pro3ではまた思い切った選択をしてきました。

背面モニターを使わせないように、隠してある……というか、デフォルトで裏返しについているという、まさかの仕様。もちろんバリアングル的なギミックも無く、モニターを見るには下にパカッと開くしかありません。「背面モニターなんて飾りですよ。(富士フィルムの)偉い人はそれを分かっているんです」

・FUJIFEST GLOCAL 2019

まあX-Pro2の愛用者や、あるいは X-Pro2 をスルーして今でも X-Pro1 を使っているファンなら無条件で買うのでしょう。富士フィルムの新型はいつでも正当に進化するので、ある程度盲目的に信頼していいメーカーの一つだと個人的に思っています。

それでも、例え買うと決めていても、買う前には触りたくなるものですよね? そんな願望をかなえられるイベントが、10月26日に開催されていました。「FUJIFEST GLOCAL 2019」です。

会場は東京国立博物館の表慶館。場所選びに「X-Pro3はそういうカメラだぞ」的なメッセージを感じます。それはともかく、こちらにて色々いじくりまわしてきたので、気になった点や良かったところなどを簡単にお伝えしていきます。


・外観とか端子とか

まずは外観から行きましょう。まずは正面……といっても、X-Pro2とほぼ同じ。ぶっちゃけぱっと見て違いはわかりません。いや、じっくり見ても分かる気がしません。縦横比も全く同じです。


ただ、トップ部分の素材はチタン製に。今回触ったモデルは、やや遅れて発売予定のデュラテクトという表面加工技術が施されているもの。多少擦った程度では傷一つつかないそう。カメラは精密機械でありながら、ハードに使用される道具でもあります。剛性は大事ですからね。


入出力端子はUSB Type-Cと、2.5mmのミニジャック用のみ。動画撮影がしたくてこのカメラを選ぶ人はまずいないでしょうから十分でしょう。ただし、カメラ本体のビデオ性能はスペック表を見る限りX-T30などと同等なので、突然動画が撮りたくなった場合などには十分仕事をこなしてくれるかと。


記録メディアは安心のSDカード2枚挿し。この辺りはしっかりとプロユースを意識した仕様となっています。防塵・防滴とのことですが、シーリング的には過信は禁物だと思いました。


・背面とモニター

話題の背面を見ていきましょう。


知らない人が見たら「モニターちっさ!」と勘違いしそう。まあ間違いではないのですが、正解でもありません。表に見えているのはあくまでサブモニター。メインは開くと出てくる感じ。


操作系については、X-Pro2よりもボタンが減ってすっきりしています。メインモニターがタッチパネルになったので、物理ボタンは不要となったのでしょう。タッチの感度は上々で、かなりヌルヌル動きます。

ちなみにモニターは下にしか開かないので、そのままだと邪魔になります。つまり撮影時は閉じるのが正解。閉じた時に見えるものは、その時のフィルムシミュレーションの設定か……


あるいは極限まで必要最小限な、シャッタースピードやF値、ISOなどの設定のみ。設定で変更可能です。ちなみにこれ、バックライトとかはありません


なお、閉じた状態でもフィルムシミュレーションは簡単に変更することができます。


https://instagram.com/p/B4JwxA6Jmyf/


その際にサブモニターに表示される、フィルムの外箱をイメージさせるデザインが何ともニクい。フィルムとして実在しない Classic Chrome が黄色なのは、Kodac社の今は無き Kodachrome へのリスペクトでしょうか。ちなみに電源をOFFにしても表示は消えません


・背面モニターってぶっちゃけ見なくね

でまあ本モデルに対する賛否を分けるのが、やはりこの背面モニターの仕様でしょう。個人的な感想を述べるなら、全く問題なしというところ。というのも、背面モニターなんてぶっちゃけ使わないからなんですよね。ISOやシャッタースピードは、ほとんどのカメラでトップ部分か、ファインダー内で見えるので。

「撮った写真のチェックを」とかあるかもしれませんが、背面モニターなんて使ってられないでしょう。反論覚悟の上で、それでもこれは自信を持って断言できるんですが……小さい背面モニターで写真をチェックしても無意味です。

見えてるようで、実際には画面が小さすぎてほとんど確認なんてできていません。拡大したらしたで、全体が見えなくなりますから。撮った写真のことは、帰ってPCモニターでチェックするまで放置が基本。確認してる時間で逃すシャッターチャンスの方が惜しいというもの。

ミスショットが怖い時は連続でシャッター切って、ヒット率を上げるしかない。もしかしたらこれは、フィルム時代に身についた習性からくる、やや時代遅れな主張なのかもしれません。ですが、撮った写真をその場でチェックするのは時間の無駄。

どうしてもミスできず、しかも何度もリテイクできる状況なら例外となります。でもそれは、タブレットなどを外付けモニターとして持って行く場面。カメラのボディの背面に収まるサイズである以上、どれだけ高精細になっても写真のチェックには不向きだと思います。

ファインダーを覗けないようなアングルでの撮影についても同じです。外付けモニター必須案件というヤツです。それ以外なら、写真はモニターではなく、ファインダーを覗いて撮るのが基本だと思います。ファインダーの無いカメラ(外付けであればOK)はカメラじゃない。ファインダー原理主義過激派。

まあ、X-Proシリーズに手を出している系の方々はレンジファインダーとかが好きなのでしょうし、撮影スタイルもストリートフォトがほとんどかと。この辺は言うまでも無いことと存じます。


・恩恵は?

無論、背面モニターがあっても無駄になることは無い……ただ使われないだけなので、あえて隠してしまう必要も無いといえばそのとおり。ではあえて隠した結果得たものとは……?

現実的な話しをすると、元々モニターを使わない人にはその分バッテリー面での恩恵があります。消費電力の大きいモニターがオフになっているだけで、撮影可能時間は延びますからね。

1枚撮るたびにモニターで写真をチェックする人(恐らくカメラを手にして間もない方)なんかは、多少の緊張感と共に、よりシャッターを切ることに対して集中できるようになるかと。

最初は不安かつ不便に感じるかもしれませんが、1日じっくりと撮り歩けばすぐ気づくハズ。写真の撮れだかが、1枚1枚チェックしてたころと変わらないことに。一方で撮影スピードが圧倒的に上がるため、撮れる枚数は増えます。マジです。

そういう意味では、矯正器具とかトレーニングマシン的な側面もある1台。X-Pro3とマニュアルのレンズのみで撮影して回れば、間違いなくカメラに対する理解は深まるかと思います。

慣れてるつもりだった筆者も、久しぶりのOVF&レンジファインダーで撮って、視差(レンジファインダーは、見えてる通りに写らない)にやられて「鈍ってるなぁ」と……技術が試されるのが、それはそれで楽しい。モニターは無関係ですが、撮影のプロセスそのものが楽しいというのもまた恩恵かと。


・進化しまくったEVFと、顔認証やAF

モニターについてはこのくらいにして、次はファインダーに触れていきます。X-Pro シリーズ共通の特徴として、EVF(電子ビューファインダー)とOVF(光学ファインダー)の切り替え機能があります。

フロント部分右側のレバーをカチャカチャやるだけで、瞬時に切り替えられるというやや変態チックな仕様。X-Pro1 が出た時にはかなり話題になりました。でまあ、正直なことを言うと、X-Pro1、X-Pro2ともに、EVFの性能がちょっと残念だったと思うんですよ。

表示が遅すぎて微妙で、精細さも残念で……。でも X-Pro3 のEVFはガチでした。有機ELになってめちゃくちゃ綺麗に見えます。タイムラグも全く分かりません。


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先代よりも進化したのはそれだけじゃありません。AF性能や顔認証もめちゃくちゃ早い。というか、その辺の中身の性能はフラグシップ機の X-T3 と同じです。ここで1点、X-Pro2 から買い換えようというユーザーに向けて一つ。


顔認証やAF、特に瞳AFを使いまくっていると、急にラグを起こすことがあります。あらゆるレスポンスがカクカクして、メモリー足りてないんじゃないの……? みたいな。


https://instagram.com/p/B4KKfK7JM3b/


これは X-T2 以降にはあって X-Pro2 には多分無かった(あったら申し訳ない)「ブースト」モード的な設定をONにする必要があるというやつです。ノーマルのままこういった機能を使いまくるとすぐに動作が遅くなってしまう。


ちゃんとブーストにするとその問題は解消されます。ただし、消費電力が増えて稼働時間が短くなってしまいますが。きっとOVFを使ってマニュアルで撮影する人に配慮した設計なのでしょう。

EVFを使用して、AFなどをフルに使って撮影される方は、この設定に注意したほうがいいかも。知らないで動作がカクカクし始めたら、故障と勘違いしてしまう可能性も。


・ストリートフォトグラフィー特化

とまあこんな感じでしょうか。描写性能やレスポンスはことごとく進化。レンジファインダー式で趣味性が強い X-T3 といった感じです。控えめな本体のデザインもあいまって、ストリートフォトグラフィーに特化しています。

撮影中のフィーリングはまさにフィルムカメラ。ですが性能はバリバリに最新のミラーレス。フィルムライクで最新性能を享受できます。剛性もチタン採用でシリーズ史上最強で、末永く付き合っていけるカメラでしょう。

他のデジカメとは仕様が違いすぎて単純に比較できないものなので、買い替えの対象となるのはそれこそ同じシリーズの X-Pro1 か X-Pro2 のみかと。これらのユーザーは買い換えて絶対後悔しないと思います。

それ以外の方は……正直これは1度店頭で触れてみて、レンジファインダーがしっくり来るか、フィルムライクな撮影スタイルに馴染めるか、というところ次第かなぁと。個人的には好きです。

ああ、でも1つだけ。トップ部分と底が真鍮製のブラックペイント版とか出ませんか?

参考リンク:FUJIFEST GLOCAL 2019X-Pro3
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.

▼これが視差を図り間違えた試し撮りの結果。その場の天井のランプを中心において撮ったつもりが……不自然に左にずれてます。現場で気づいてニヤニヤしてしまいました。