「何事も自分で体験しないと分からない」とよく言われるが、それはだ。正しくは、「経験しても分からないことは腐るほどある」であり、もっと言うなら「自分で経験したことでも、周りの空気や誰かの意見が無意識のうちに自分の感想になってしまうことはよくある」だろう。

同意できない人だっているだろうが、それくらいに思って生きていた方がいい──と、私は感じている。というのも……これを書いている今まさに、空気に飲まれたことを後悔しているからだ。何があったのか? それを以下で紹介したい。

・都内の某所で

手っ取り早く状況を説明しよう。先日、私はシュールストレミングが入っている密閉ボックスに顔面を突っ込んだ

……もう少し補足すると、シュールストレミングとは「世界一臭い缶詰」と言われているもので、まぁとにかく臭い。当編集部では、何度か「会社で開ける」という無謀極まりないことをしたが、そのたびにオフィスが悲鳴で揺れた。マジのマジで臭いのだ。

そんなシュールストレミングの匂いを好きなだけ嗅げるボックスが、「くさうまレストラン」の会場内に置かれていたのである。

「くさうまレストラン」については以前の記事で紹介したので、詳しくはそちらを確認してもらうとして、そのボックスがあったから頭を突っ込んだというだけの話。やったこと自体は実にシンプルなのだが……

顔を突っ込んだ直後、私は混乱した。「シュールストレミング」が思ったよりも臭くなかったからだ。臭いかと言われれば確実に臭いのだが、どう考えても以前に嗅いだものよりパワーダウンしている。

以前のシュールストレミングが、顔の前でスカしっぺをされたようなものとするならば、今回のシュールストレミングは2メートルくらい先で誰かが納豆を食べているような感じ。全然違うのだ。つまり、


「このシュールストレミングはそんなに臭くないぞ」


──というのが私の本音だったのだが……そう確信すればするほど戸惑った。なぜなら、周りで見ている人たちは「絶対に臭いんだろうな」という空気だったからである。

彼ら・彼女たちは、何より私のリアクションに注目しているはず。「密閉ボックスから顔を上げた瞬間、あの人はどうするのか?」的な感じで。おそらく、密かに期待されているのは「うおぉ〜死ぬ!」的なリアクションだろう。

その状況で、「別にそこまで臭くないっすね」と言うのは正解なのか? そんなことを言ったら、「めっちゃ場数踏んでます感をアピールしている」と思われるのではないか? 「シュールストレミングのプロを気取ってるヤツ」と思われるのではないか? などと考え出すと、どうしていいか分からななくなった。


本音を言うべきか、それとも周りの期待に沿うべきか。散々悩んだ挙げ句、私がとったリアクションは……



後ろによろめきながらの「うおぉ〜死ぬ!」


つまり、空気を読むことを優先したのだが、そのあと私の心は不安に包まれた。なぜなら、シュールストレミングの密閉ボックスにチャレンジする人の中に、私ほど大袈裟なリアクションをする人が、少なくとも私の見てる範囲では1人もいないのだ。大抵の人は、「クサ!」と言って顔をしかめる程度。

これじゃまるで、自分だけ「盛りまくってリアクションするヤツ」みたいじゃないか……。


──それから数十分後。 


「くさうまレストラン」では、トークタイムに突入。今回使われた食材に携わる人が登壇して、お話をしてくれる運びとなった。その際、登壇した1人が決定的なことを言ったのだ。


「こちらに置かれていたシュールストレミングのボックスですが、今回は実物より匂いがマイルドになってます」


匂いがマイルド……


匂いがマイルド……


匂いがマイルド……


……


……


参考リンク:くさうまレストラン
Report:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.

▼ちなみに、マイルド化されていない「ガチなシュールストレミング」を嗅ぐとこうなる