なんだか最近見たことも聞いたことも無いような「マナー」が急激に増えている気がする。そのほとんどがTVからの情報というのも、いささか信用ならない

ここ数日、Twitter上でTVで紹介された「とっくり」に関するマナーが物議をかもしている。「注ぎ口を上に向けて注ぐのが正しいマナー」というヤツだ。いやそんなの聞いたことも見たことも無いけど出所はどこよ? 気になったので調べてみたぞ!

・TVで紹介されたのは2018年8月

まず最初に調べたのは、このTV番組というのがいつのなんという番組なのかについてだ。Google先生に聞いてみたら、調べたというのもおこがましいほどあっさりと、5分程度で明らかになった。

テレビ朝日の『日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ! 優越感』という番組で、2018年8月16日の19時から20時に放送されたものだ。

どうやらこのとっくりマナー、放送当時もそれなりに話題になったようで、ここ数日のはリバイバルヒット的な感じみたいである。とっくりの注ぎ口の存在理由を全否定するようなものだし、バズるのも納得である。

・TV局のでっち上げじゃないのか

どうやらTVで紹介されたというのは本当みたいだ。しかし、次に出てくるのは「このマナー、TV局のでっちあげじゃないの?」というもの。

これは筆者は個人的に、バラエティー番組で紹介されるあらゆる情報は鵜呑みにしたらマズいと思っている。なんならTVで芸人が「今日は晴れです」と言った程度でも、あらためてリアルタイムの衛星画像で真偽を確認するくらいにTVを信じていない。

ましてや、最近じゃそれっぽいマナーを新しく生み出しては自著のマナー本や講演のネタにして金を稼ぐ、マナー屋的な者の暗躍もまことしやかにささやかれているレベル。

とっくりのマナーはこの番組以前から存在しているのだろうか? また、何かしらとっくりに関わる人たちに肯定されているのか調べる必要があるだろう。

・長崎県の陶芸商のHPに記載が

Google先生に聞いてみると、「長崎県無形文化財指定 十四代 臥牛窯」なる陶芸商、あるいは窯元だろうか。そのHPにて以下の記述を発見。


「徳利にはいろいろな形のものがあるのですが、注ぎ口が上になっているものはその反対側から注ぐのが正しい方法と言われています。こうすることによって、相手に仏様や神様に対する祈りの形と言われる宝珠(ほうじゅ)の形を見せることになるからです。

あるいは注ぎ口から垂れないようにするため、あるいは真ん中から注ぐのは縁切りになるため、角が立たないように尖っていない部分で注ぐためなどの理由もあります。理由には諸説あるのですが、いずれにせよ注ぎ口以外から注ぐのがマナーとなっています」


もちろん「臥牛窯」についても、長崎県の学芸文化課に問い合わせてみた。こちらは横石臥牛を襲名していた陶芸家が、実際に県の無形文化財に指定されていたと確認がとれた。現在は逝去にともない無形文化財の登録は解除されていることも、あわせて記しておこう。

HP上のマナーに関する記述がTV番組の影響を受けて作成されたのか、それともその前からあったのかは不明だ。ただ、ちゃんと歴史と実績のある陶芸家の公式HPにてこのマナーが肯定されているのは確かである。

更にググッてみたところ、2006年時点での注ぎ口の向きに関する質問がYahoo!知恵袋にて確認できた。それより古い情報は発見できなかったが、とりあえずTV番組のでっちあげではなさそうだ。

・とりあえず昨日今日作られたマナーではない

ということで話題の「とっくりの注ぎ口から注いではならない」というマナー。知名度は低いと思われるが、それでも10年以上の歴史はありそうだ

だが今回に関しては、そういうマナーがあるからといって、守るというのもバカバカしいように思う。せっかく注ぎやすいようにするための工夫として注ぎ口があるのだから、それを活用する方が道理にかなっているのではないだろうか。

・そのマナー存続に配慮したマナー

そもそもマナーというのは、守ることによって特定の地域やコミュニティ内で美徳と受け取られる作法のことだ。そこに存在するほとんどの人間が知らないのであれば、もはや美徳でも何でもなくただの変わった作法……場合によっては奇行だろう。

筆者の解釈としては、上述に加え「互いに気持ちよく過ごすための、他者への配慮を形式化したもの」がマナーだ。ところで、今回のとっくりのマナーは一体何に配慮しているのだろうか。

ぶっちゃけこのマナーを守っても、このマナーそのものが存続し続けることくらいしか効果はないように思える。マナーの存続に配慮して無意味に受け継がれるマナーとか、どんなマッチポンプだよ。

・守るべきマナーと無視すべきマナー

これはいささか過激な意見かもしれないが、個人的には無視すべきマナーもあると思っている。例えば、その場で 1人しか知らないようなマイナーなものはその筆頭だ。

広まっていない以上、それはその場、あるいはそのコミュニティには適していないということ。そういうものは淘汰されてしかるべきだと思うのだ。

また、著しく利便性を損なうようなものは、実害が無い限りいっそ皆で無視していいんじゃないのかとも思う。たとえ広く知られていて一般化していても、大多数が不便に感じているなら もはや害悪だろう。

ちょっとマナー屋さんとかTV局の方。変なマナーばかり増えると窮屈な上にバカバカしくて辛いので、「マナーを無視するマナー」を広めてくれませんか? 好評を博すと思うんだけどなぁ。

参照元:テレビ朝日Yhaoo!知恵袋臥牛窯
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.