癒されたい。生き馬の目をボコボコえぐり抜く現代社会、過酷な嵐の中でほっと安らげる時間が欲しいと、1度は心に浮かべたことのある方も多いだろう。かく言う筆者も折に触れて「癒されたい」と願う日々を過ごしている。

そんな筆者の脳裏に、先日とあるおもちゃの記憶がふとよみがえった。何かと言えば「シルバニアファミリー」だ。子供の頃TVアニメに挟まれるCMでよく見かけた、癒しの化身のごときおもちゃ。今まで実物に触れたことはないが、手に取ってみれば十割十分癒されるに違いない。

確信めいた予感を抱く一方で、こうも思った。果たして三十路のおっさんである自分が、女児向けのそれを楽しめるものなのかと

・「シルバニア」を知る

玩具メーカーのエポック社から発売されている、ドール系おもちゃ界の重鎮「シルバニアファミリー」。筆者の子供時代から人気も知名度も抜群だった。可愛いとは思えど手は出せなかったあの頃から約20年、今さらシルバニアデビューは可能なのか

不安やためらいが心を鈍らせる。しかし「癒されたい」という欲求と、そもそも実際に眺めるシルバニアファミリーはどんなものなのかという好奇心がそれらを凌駕した。

ただ、シルバニアデビューにあたってまだ足りないものがあった。それは下調べである。一口に「シルバニア」と言っても種類はさまざま。そこで調査の末に購入したのは、「はじめてのシルバニアファミリー」と呼ばれる商品だ。

こちらのセットには、ウサギの女の子一匹と家屋に加えて、家具やキッチンなども同梱されている。スターターパックとして手を出しやすく、価格もAmazonで2571円(2019年12月11日現在)とお手頃。筆者のような人間にはうってつけである。

商品の外箱を見ると、「シルバニア」の世界観に関する説明が記載されていた。深い森を抜けた先にある、世界のどこよりも美しい村。そんなシルバニア村に住む、世界で一番心優しい仲間たち、シルバニアファミリー。癒される気しかしない。

さらに説明を読み進めると、どうやらウサギの女の子はショコラウサギという種族らしいことがわかった。100点満点のネーミングではなかろうか。

ちなみにこの商品、対象年齢は3歳以上だ。三十路なので余裕で満たしている。考えようによっては、単純計算で10倍楽しめるとも解釈できるだろう。


・「シルバニア」を楽しむ

浮かれた試算もそこそこに箱を開けたところ、すでに組み立て済みの家屋、パッケージされた状態の家具、そしてショコラウサギが登場した。

もうこの時点で大概可愛い。思わず顔がにやけてしまう。三十路の男とショコラウサギ、初めての接近遭遇である。

とはいえ、まだ目の前のおもちゃは完成形ではない。外箱に載っている画像と照らし合わせながら、取り出したパーツたちを家の中や周囲に配置していく。

前述の通り何かを組み立てる必要などないので、数分とかからずに出来上がった。


うら寂しい男1人の部屋に……



温かな「シルバニア」の風が吹いた。



可愛い……!


可愛すぎる。何だこれ。すごい。猛烈な勢いでドーパミンが分泌されているように感じるし、完全に気のせいなのだが甘い匂いもしている。おそらく運気も上がっている。全てを良い方向に向かわせるような、そんな圧倒的な可愛さがある。

ただショコラウサギ一匹に自室を間借りされただけなのに、この衝撃だ。「場が華やぐ」とはこういうことかと齢30にして思い知る。

子供の頃にTVで見ていた「シルバニア」と約20年越しに出会ったことで、不思議な感慨も湧いている。すでにだいぶ満足してしまったのだが、もちろん「シルバニア」は眺めて終わりというだけのおもちゃではない。むしろここからが本番だ。

「シルバニア」の醍醐味。それはショコラウサギや家具を使った人形遊びにほかならないだろう。というわけで、今だけは自分の年齢を忘れて全力で遊んでみることにした。



起きた~。気持ちのいい朝~。



朝食のオムライスを作って……



もぐもぐ。おいしい~。



今日は休みだしゴロゴロする~。



たまに少したそがれてみたり……



蛍光灯替えたりもする~。



夜になったし寝ようと思ったら、なんかポタポタ音がする~。



やっぱり水道の蛇口締まりきってなかった~。



楽しい……!


可愛いし楽しい。何だこれは。思わず夢中になってしまった。スターターパックであってもパーツの数が充実しているし、それぞれのパーツが独立しているので、思っていたよりも遊び方に幅がある。

極端なことを言えば、「ベッドの上に鎮座するオムライスを見つめるショコラウサギ」といった、わけのわからない遊び方までできてしまう。

当然パーツやショコラウサギを買い足せば、いっそう遊びの可能性は広がるだろう。「シルバニアファミリー」ってすごい。

だがそれにしても、内容が充実しているというだけでここまで没入できるものだろうか。これほど「シルバニア」の世界に引き込まれるのは、何か他に重大な理由があるからに違いない。


・「シルバニア」を読み解く

そう考えた筆者は観察の目で癒し空間を眺めていたのだが、ほどなく「理由」は見つかった。ずばり、リアリティである。ファンタジーでありながら、しかし「ここがシルバニアだ」という現実味を抱かせるリアリティが確かに漂っているのだ。

そして、そのリアリティを支える要素は2つある。まず1つは作り込みだ。例えば今回購入した「シルバニア」の家屋や家具には、そこかしこに花の模様が丁寧にあしらわれている。


ダイニングテーブルや椅子にも……



玄関のドアにも……



窓の扉にも……


とにかくいたるところに、ちょっと見とれてしまうレベルの精緻さで刻まれている。のっぺりしているパーツは1つもない。こうした細部まで手抜きのないクオリティが、ユーザーを引き込むのに一役も二役も買っているように思う。

「手抜きのない」と言えば、キッチンパーツの下部の扉を開けたらちゃんと排水管が配備されていた時は普通に驚いてしまったし……

ショコラウサギのスカートの裏地にまで細かな装飾が施されていたのにも、変な意味ではなく目を見開いてしまった。本当にどこに視線を向けてもこだわりにあふれているのだ。

作り込みに加え、もう1つ特筆しておきたいのは質感である。それが最もわかりやすく表れているのは、家屋の床面だろう。

真新しくピカピカというわけではなく、やや年季の入った見た目だ。時間の経った木材特有の、白くかすれたような色味が認められる。


床面だけでなく、柵のパーツも……



キッチンの水道も……


ほどよい古めかしさ、絶妙な経年感をまとっている。そこにはショコラウサギがこの家で過ごしてきたであろう時間が降り積もっているのではないかと、そう思えてならない。


・「シルバニア」をまとめる

作り込みと質感。この2つの要素が支えるリアリティによって、「シルバニア」は単なるおもちゃではなくなっている。シルバニア村のショコラウサギが確実に目の前にいる、のどかな暮らしを営んでいると、そんな風に感じさせてくれる “世界” そのものだ。

だからこそ、幼い子どもたちのみならず、こうして三十路の男までも夢中にさせることができてしまうわけである。今なら自信を持って言える。シルバニアデビューに遅すぎるなんてことはない。年齢も性別も関係ない。

皆さんの中にも未体験の方がいたら、ぜひこの手の込んだエンターテイメントを味わい、そして存分に癒されてほしい。美しい「シルバニア」の世界は、心優しい「シルバニア」の住民は、決して我々を拒んだりはしないはずだ。 

参照元:エポック社「シルバニアファミリー」公式HPAmazon「はじめてのシルバニアファミリー」
Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.