「1389」や「1917」など、歴史的事件が発生した年を名前にしたメタルバンド達を、以前の記事で紹介した。その中で言及したバンドに日本のグラインドコアバンド「324」がいる。疾走感とブラストビートの迫力が凄まじく、世界的にも非常に人気の高かったバンドだ。「Corrupted」や「Discordance Axis」とのスプリットなどもリリースしており、まさに伝説的なバンドであった。

そのカリスマ的バンド「324」を調べるために、インターネットで検索しても、「会社法第324条」とか「324教室」、電化製品の型番ばかりがヒットしてしまい、肝心なバンド情報がなかなか得られない。今回はそんな名前が数字のバンドについて、お伝えしよう。

・「324」で検索すると無関係な事ばかりがヒット

結局、ネットで調べるためには、「324 AND グラインドコア」等と検索しないといけない。このバンドを「グラインドコア」という言葉を使わないで紹介している記事も多数ある。結果的に情報をネットだけで得るのはかなり難しいのである。

・「666」、「13」はメタルにありがちなバンド名

さて、この「324」以外にも数字系バンドは多く存在する。例えば「悪魔の数字」と言われる「666」をバンド名にしたものとしては、ハンガリーのブラックメタルや日本のスラッシュメタルなど4バンドもいた。ニューヨークには「13」というスラッジ、セルビアには「69」というゴシックメタルがいたが、これらの数字の意味もはっきりしている。

そういった分かりきった数字や、すでに紹介している歴史年号系バンド、「7th Child」など数名詞が使われているもの、「7 H.Target」など部分的に数字が用いられているものなどは今回除外した。

・日時系のメタルバンドも多いが、またの機会に

また例えば「21:37」というポーランドのブラックメタルは、同国出身の法王ヨハネ・パウロ2世が死んだ時間を表しており、反キリスト教を標榜している。その意味を探ると面白い。他にも「11:11」や「12.7」、「12:06」、「1:34」など日時系のメタルバンドを複数発見したが、これらはまたの機会に譲りたい。また「14-22」や「14/88」など数式や記号が入っているものも多く発見したが、今回は敢えてこれらも除外した。

そしてピックアップしたのが、以下のバンドだ。

・1134

イリノイ州のスラッシュメタルバンド。実はこの数字を逆さに記すと、「hell」に見えるのである。2005年にデモをリリースしただけで解散。ケンタッキー州には「11:34」というデスメタルがいるが、こちらは別バンド。

・2112

ブエノスアイレスのプログレッシヴメタル。結成当初は「Fahrenheit」だったが、1986年から「2112」に改名。バンド名の由来は「Rush」の名アルバム『2112』から取ったもの。1983年の結成から34年経過した今でも活動しているので、今から95年後の2112年まで解散しないで欲しい。

・237

テキサス州のグルーブメタル。映画『シャイニング』に出てくる部屋番号「237号室」から取ったもの。実はこの映画に影響を受けて『ROOM207』という映画が、新たに2013年にアメリカで公開されている。

・3

「Aborym」や「Mysticum」に影響を受けたイタリア・シチリアのインダストリアル・ブラックメタル。2000年から2015年まで活動していたようだ。結局、数字一桁の名前だと色々と不都合が多かった為か、Facebookのバンドページなどは「3 Rosario Badalamenti」と表記せざるを得ない状態に陥っていてマヌケである。

・420

1998年にデモをリリースしたブルータルデスメタルバンド。「420」はスラングで「大麻」を意味する。言葉の由来については諸説ある。ロングアイランド出身だった為、「Internal Bleeding」や「Dehumanized」、「Repudilation」など著名バンドのメンバーも重なり、知る人ぞ知るNYDM(New York Death Metal)の伝説的なバンド。

・5150

日本の音楽同人サークル。読み方は「ゴウイチゴウマル」。主要メンバーは「龍5150」でシンフォニック東方メタルを奏でる。バンド名の由来は突き止められなかった。

・602

ロシア・ベルゴロド出身のデスメタル。ソ連が開発した人類史上最大の威力を誇る兵器である、水素爆弾「AN602」が由来。広島に投下された「リトルボーイ」の3300倍で、西側からは「ツァーリ・ボンバ」と呼ばれている。

ちなみにベルゴロドには「Coprobaptized Cunthunter」や「Sickcunt」などかなり迫力のあるブルータルデスメタルバンドがいるのに、このバンドは名前の大げささにもかかわらず、スラッシュに少しデスメタルが入っただけのショボサで拍子抜け。ロゴが「S.O.B」とソックリ。

・6301719

ミュンヘン出身のブラックアンビエント。2015年にリリースしたアルバム名は『846​-​49​-​1』。別プロジェクトバンド「KalteTage」ではメンバーの名前として、ギターボーカルが「6301719」、ベースが「6655321」、もう1人のギターが「11134077」だそうだ。それぞれの数字の由来は不明。曲を聴いてみると、ほとんどイントロで終わってしまったかのような、起伏のない効果音が続くだけ。

・78424325

メキシコシティ出身のブラックメタル。バンドの説明によると、電話番号でバンド名の数字を押すと「Suicidal」になるとのこと。メキシコはゴアグラインドのイメージが強い反面、近年ではディプレッシヴ・スイサイダル・ブラックメタルの一大産出国となっている。このバンドもその例に漏れず、悲壮感が漂っており、聴いているだけで寒気がする。

・88

ブルガリアのサンダンスキで結成され、後に拠点をアリゾナに移した、いわゆる国家社会主義ブラックメタル。「8」はアルファベットの中で8番目の「H」を意味する。その2つが並ぶと「ハイル・ヒトラー」、あるいは「ハインリヒ・ヒムラー」を意味するのを知っている人は知っているだろう。

そしてハインリッヒ・ヒムラーは親衛隊である「SS」の指導者だが、このバンドのロゴも「8」の数字を改変して、「S」に見えるようにしている。色々と意味深なバンド名。

・9

ブエノスアイレス出身のオールドスクール・デスメタル。2009年にリリースしたフルレンスアルバムも『9』と非常に紛らわしい事になっている。ロゴは「9」が三つ巴になって手裏剣になったようなもので、なかなか格好いい。バンド名の由来はどこにも説明されておらず、一桁数字のため、情報収集もほぼ不可能だった。

さて、こういった無機質な数字の名前の奥に込められた意味を調査すると、バンドのコンセプトやアイデンティティーが分かり、雑学知識も得られるのでお勧めである。一方で、今後バンドを結成しようと思っている方々は、謎めいたカリスマ性を演出しようと思っているのではない限り、数字だけのバンド名は避けた方が良さそうである。

以前の記事、「難読デスメタルバンド名15選」で、マレーシアのダークアンビエント「14120912519」や日本のパワーメタル「17586063」も紹介したので、こちらも合わせて見て頂きたい。

ちなみに「324」のメンバーだったシンジ氏を、筆者が司会進行を務めるディスクユニオン新宿店で定期的に開催されている、トークイベント『デスメタルジャパン』にお招きする予定だ。このイベントでは、バンド名の由来なども含め、今までネットなどでは明るみにされなかった情報を語ってもらう予定なので、興味がある方は是非来て欲しい。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24

・「324」が2000年にリリースした名盤『冒涜の太陽』

・劣悪な音だが、グルーブを取り入れ始めたNYDMの片鱗を見せる「420」の『Reality』

・日本では「自殺系ブラックメタル」と呼ばれるジャンル「78424325」の『II』