裏バイトの代表格として名高い治験アルバイト。学生時代、カップラーメンを食べるお金にも困っていた筆者は、懸念される副作用(事前実験でサルが死んだらしい)にも臆することなく14泊15日というヘビーな案件に参加した。

しかし怪しいバイトだけあって集まってきたのはやはり変わった人間ばかり。某大学病院の研究施設の中にある無機質な病棟に並べられた9つのベッド。大量のゲームと漫画が備えられた娯楽室もある。今回はそこで出会った個性豊かな人間たちを紹介しよう!

・夢はデッかくパティシエ

ベッドの上では漫画を読んだりゲームをしたりとみんなそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。その中でも異彩を放っていたのが推定30代後半のスキンヘッド男。そいつも四六時中、自分で持ち込んだ本を読んでいるのだが、その本がすべてスイーツのレシピ本なのである。

ちゃっかり「開業マニュアル」的な本も持っていて、誰がどう見てもパティシエ志望。100円ショップで売っているようなレシピ本を読んでなにか意味はあるのか?とも思ったが、身体を張ってゲットした30万円を資本金に、今ごろスイーツ業界で一旗揚げていることだろう。


・看護婦さん、ファミ通買ってきて!

入院中はとくにすることもなく、ただただダラダラする生活が続く。それでもってまとまったお金がもらえるのだから、ニートのような人間にはもってこい。起床時間の朝7時からゲーム機のスイッチを入れ、検査の時間以外はマジでずっとゲーム。そんなゲーマーの鑑(かがみ)みたいな男が看護婦に放った言葉とは……。


「すみませんが今週のファミ通を買ってきてもらえませんか?」


入院中は勝手に外出ができないため、ナースにおつかいを頼んでいた! しかも読み終わったファミ通は娯楽室に寄付するということで病院の経費扱いにさせていた。余談ではあるが気になってその男性の名前をググってみると、地元のカラオケ大会で子どもや老人たちを差し置いて優勝していた……。


・空調を支配する病的に寒がりな男

治験アルバイトは集団生活ができない人にはなかなか厳しいものがある。参加した9人全員に協調性があるかというと、もちろん答えはNO。そんな問題児の1人は、1日中病棟の空調と空気清浄機をひたすら微調整し続ける男。

ほかの8人が汗をダラダラ流しているにもかかわらず、1人毛布にくるまって暖房の温度をピコピコと操作しているのである。しまいにはリモコンを布団の中に隠し持ち、看護婦さんにこっぴどく叱られていた。


・治験なのに注射が怖い

入院中は1日1回採血がある。治験に参加するくらいなのでみんな注射には慣れっこなのだが……。「看護婦さんの手握っていてもいいですか?」と注射の度にセクハラをする男が1人。こいつ、どうやら本当に注射がダメらしく、陰で看護婦さん同士が「注射がダメなら応募しなければいいのに」と呆れているのを目撃した。たしかにいい迷惑である。


じつをいうと最後の注射がダメな男とは筆者のことである。


つまりは筆者を含め、治験に参加する人間にまともな人間などほとんどいないということ。ファミ通男が娯楽室にあったゲーム「バイオハザード」を全クリして看護婦さんに拍手されたり、パティシエ志望が思い出したように「スラムダンク」を読み始めて1人涙を流したりと治験の現場はまさに人間ドラマの宝庫。

時間に余裕があるという方はぜひとも事前の健康診断に参加してほしい。ただ、楽して稼ぎたいという怠け者はごまんといるので倍率はビックリするくらい高いぞ!

Report:國友公司
イラスト:マミヤ狂四郎