この物価高のご時世に、無謀な値下げを繰り返す、ナイフのように尖ったカフェがあると聞いて大阪にやって来た。

ドリンクは自販機プライス。トーストは60円。どこの国の店だよ? と、思わずメニューを二度見してしまう不思議な価格設定。

チョコレートパフェ、かき氷に始まって、天ぷらそば、カレー、さらに鍋焼きうどんまで網羅。店員は高齢のマスターひとり。こりゃ気になるよ!

・大阪なのに銀座。電車は30分に1本。ここはどこ!?

大阪の下町、西成区。南海本線の天下茶屋駅から徒歩約30分。足の痛みで気が遠くなりかけた頃、目指す「銀座商店街」のアーケードが見えてきた。

古びた商店街には、懐かしいとか、そういう牧歌的なレベルを越えた「昭和感」が漂っている。それはもう「時間が止まっちゃっている」と表現しても差し支えないほど。この奇妙な空気の源流となっているのが、今回紹介する「コーヒーショップ マル屋」である。

いきなり余談だが、お店の目と鼻の先、商店街の真横には「西天下茶屋」という小さな駅がある。なら電車で来りゃよかったよ……と思いきや、大阪のほぼ中心にありながら、日中30分、夜間は40分間隔という、秘境駅さながらに電車が来ない謎の駅だったりして、つまり、そういう場所なのである……。

経年劣化で擦りガラス状になったショーケースからも、かなりの年季が伺えるマルヤだが、ケース内のサンプルには「ハムトースト120円」「クリームみつ豆140円」といった攻撃的な値札が平然と貼り付けられ、300円を超えるメニューは皆無。

セピア色の渋い店内に腰かけると、ベレー帽にちょび髭、推定年齢70代のマスターが抑揚のない朴訥な口調で「いらっしゃいませ」と言いながら近づいてきた。年配だが創業者ではなく、二代目らしい。

・前代未聞のメニュー ちょ、ちょっと怖いんだけど!

テーブルの端にちょこんと置かれた、よれよれ、ボロボロの紙切れのような物体がメニュー。すり減ってペナペナになった古文書のようなそれは、力いっぱい広げたら最後、粉になって消えてしまいそうな代物。

そっと開くと、小さな字でぎっしりお品書きが書いてあって、さらにミクロな手書きの追加メニューが、小さな紙の余白を埋め尽くすように記されている。

全てのメニューは、なぜか値段の部分が一つ残らず塗りつぶされ、値上げしたと思いきや、併記された新価格は元の値段の半額以下という暴走っぷり。中にはホットケーキ400円がいきなり80円に値下げとか、正気を疑うケースも……。

気を取り直してエッグサンドとカフェオレのセットを注文した途端、マスターが手の平を出した。

「タマゴサンドと牛乳コーヒー。スンマセン。280円いただきます!」

そう、この店は完全先払い制だった。後から来た常連らしき老夫婦にも前払いを要求していたので、私が特別、食い逃げ犯と疑われたわけではないらしい。朝だったのであっさり目のメニューを選んだが、エッグサンドとカフェオレが280円。食い逃げする必要がない安さ。しかもシンプルでありながら味はまともだった。

時代に取り残された佇まい。でも実はここ、大阪では知る人ぞ知る有名店らしく、ファンも大勢いるみたい。これからも末永く続けていただきたいものだが、これ以上値下げしたらそれもムリじゃないかと心配でならないんですが……。

・今回ご紹介したお店の詳細データ

店名 コーヒーショップ マル屋
住所 大阪府大阪市西成区千本北2-1-33
時間 7:00~19:30
休日 年中無休(って書いてありました)

Report : クーロン黒沢
Photo : Rocketnews24.
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▼西天下茶屋の踏切。ちなみに無人駅である

▼銀座商店街。言われてみれば銀座っぽい?

▼コーヒーショップ マル屋

▼ソフトクリームは販売とりやめ中だそうです

▼あれ今日って七夕だったっけ?

▼創業「8+2年=10年」かと思った。82年です。

▼昔の人生相談って、こんな感じのガラスがあったなぁ

▼原価割ってるんじゃないかと心配になります

▼ザ・昭和な店内

▼古びてはいたけど、意外に(失礼)キレイでした

▼なんだこりゃ……?

▼メニューでした

▼目を疑う代物でした

▼視力の弱い方はメガネ必須です

▼タマゴサンド、普通に美味しかったよ!

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