「うちの実家では、厳しい冬を薪ストーブで乗り切っている」……そう言うと「いいとこの生まれなのか」と返されることも多いのだが、そんなことは全然ない。誰がどう見たって我が家は “中の中” 。生粋の中流家庭だ。

そんなごく普通の経済状況にある我が実家が、いかにして薪ストーブを維持しているかというと……答えは簡単「山行って薪割って燃料代を浮かせている」のである。

今回は薪ストーブの素晴らしさ、それを実際に維持するための苦労、そして「薪割りの向こう側に見えてくる境地」について、皆さんにお伝えしたいと思う。きっと誰もが今すぐ薪を割りたくなるに違いない。

・高嶺の花?

薪ストーブ本体の価格は安いもので10万円前後。煙突や設置場所の改造などと合わせても、初期費用だけ見れば決して高すぎる買い物ではない。


ただし重要なのは燃料代である。

我が家で1日に消費する薪は約20kg。これは平日の朝と夜間、計8時間ほどストーブを使用した場合の量だ。ただストーブのある居間は約30畳と広く、常に “ガンガン状態” で薪を燃やしているので、設置状況によってはもっと少なくて済むと思われる。

20kgの薪をホームセンターや通販などで購入すると平均2000円前後だが、安い薪はあまり質がよくないことも多い。つまり、より早く燃え切ってしまう可能性が高いのだ。すると金額はさらに跳ね上がり……。

うっかりしていると月額10万円ほどにもなる薪代。どう工面するか、それが問題なのだ。


・ステップ1:山を確保しよう!

ちょっと田舎へ行けば山を所有している人がいる。多くの所有者は荒れる草木に頭を悩ませているので、「木を切らせてくれ」と言えば案外すんなりOKしてくれるぞ。間違っても勝手に木を切るのはダメだからな!

我が家の場合は知人所有の山を自由に使わせてもらっている。往来には軽トラックが便利だ。

この時期は冬眠しているヘビをうっかり踏むこともあるので、しっかりとした服装で行くのが望ましい。探検はほどほどに……。

数年前に伐採し乾燥させてある木を……

チェーンソーで丸太状に切断し……

家族で作った “薪割り場” に運ぶ……のはメチャ重労働である。


・ステップ2:薪割りをしよう!

薪割り用のオノやチェーンソーの価格はピンキリだが、我が父いわく「やはり欧米製は性能がいい」とのこと。

切カブに乗せた木片をオノで……

打つべし!

枝程度なら楽しんでもいられるが、太い幹を薪にするのは本当に本当に大変なのである。昔の人の苦労が身に染みる。

ちなみになぜこの寒い時期に薪割り作業を行うのかというと、夏場の山は草がボーボーに生い茂る。おまけに害虫や害獣も出没し、とても立ち入れる状況ではないからだ。冬場かつ雪のない期間に、集中して “割りだめ” を行うのが効率的なのです!

叩き割った木からポーン! と冬眠中の虫が飛び出してくるので苦手な人は注意されたし!


・ステップ3:時が来るのを待とう!

木は切り倒して放置、丸太にして放置、薪にした後もさらに放置する。

そこから自宅の薪置き場に移動させ……

またも放置!

察しのいい読者はお気づきだろう。このように放置を繰り返すことによって、薪が燃えやすいよう乾燥させているのだ。

数年越しで完成した薪は燃やすのが惜しいほど、白く澄んで美しい。


・薪ストーブのある生活

驚くべきことに冬場の数カ月間、我が父はほぼ全ての休日を薪割り作業に割いているのである。確かに薪を購入することを思えば安く済んでいるのだが……。この労働を時給に換算すると、正直それほど割がよくないことが分かる。

そして今回ご紹介した我が家のケースは、こうした生活を何十年も続けたことで完成したスタイルだ。ゼロからスタートする場合は “家の改築” “技術習得” “道具購入” ……場合によっては “引越し” から始めねばならず、並大抵の苦労ではないだろう。

他にも薪ストーブは絶えず注意しておかないと火が消えてしまうなど、使用する上でも苦労が絶えない。ここで問題になるのが「そうまでして薪ストーブを所持したいか」という点だ。……いや、「したい・したくない」ではなく、「したくても無理」という人がほとんどなのではないかと思う。

薪ストーブの他に暖房の選択肢がない状況であれば、自信を持って「薪は買うより割るのがお得!」と言い切れるというもの。しかし昨今これほど多くの暖房器具がある中で、苦労を知るからこそ私は「薪ストーブを持つべきだよ」とは絶対に言えない。

断っておくが我が家にはエアコンも石油ストーブもある。薪ストーブがなければ凍死するというわけではない。還暦を過ぎた父は薪割りで疲れ果て、休日を寝て終わらせてしまうことも多いようだ。お父さん、もうやめなはれ……!

しかし父は体が動く限り、薪ストーブ生活をやめるつもりはないらしい。理由を尋ねれば「ライフワークだから」と一言。確かに山の空気を吸って汗を流す薪割り作業へ、父は生き生きと出かけて行くように感じられる。


薪ストーブを持つのは大変だ。ペットを飼うよりよっぽど手間と時間がかかる。しかし季節のたびに山へ行き、来るべき冬の準備をするという生活は、現代人が忘れがちな “古き良き日本人のあり方” に近いのではないか。ジムで運動するのとは絶対的に違う清々しさを、薪ストーブ生活はあなたに教えてくれるかもしれない。

興味がある人は落ち着いて、勢いで薪ストーブを購入することは絶対になきよう、まず山へ行ってみることから始めてはどうだろう。


ちなみに山間部などでは「近所で薪を分けてもらえる」など、お得に薪を入手できている人もいる。「薪割りは嫌だけど薪ストーブがほしい」というワガママなあなたは、 “人脈づくり” に精を出してみるのも1つの手かもしれない。

Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

▼色々言ったけど、薪ストーブの暖かさは異常

▼煙突そうじも忘れずに……

▼油断して火が消えるとこのありさま

▼ムカデ、イモムシ、カメムシがつきもの

▼山の風景はときに幻想的だ