皆さんは「割烹」と聞いてどんなイメージを抱くだろうか。料理のラインナップゆえに、ハードルの高さや取っつきにくさを感じる方も多いのではなかろうか。かく言う筆者も、店名の前に「割烹」という単語が付くと、脳の中の気構えを司る部位が活性化してしまうタイプだ。

しかし今回、なんと庶民の愛するまぜそばを提供する割烹があるらしいとの情報を入手した。「でもそれって和風な感じのお高いまぜそばなのでは?」と思いつつ向かってみたところ、良い意味で激烈に裏切られたのでご紹介したい。

・割烹が作るまぜそば

向かった先は、池袋駅西口にある「一龍庵」というお店である。

同店は夜に訪れると正統派の割烹なのだが、昼間はまぜそばを提供する「麺処 一龍庵」としての顔を見せている。

ただ注意しなければならないのは、その「昼間」というのが1週間のうち水曜日と木曜日の11:30~14:00に限られている点だ。つまり週5時間営業なのである。しかも材料がなくなり次第終了とのこと。

そういう意味ではハードルが高いことになってしまっているのだが、しかしメニューを見れば、それでも訪れる価値のあるお店だとわかる。

和風のまぜそばが載っているかと思いきや、1番上には「ポルチーニオイルのまぜそば(850円)」、2番目には「辣醤(ラージャン)まぜそば(850円)」と、むしろ推されているのは和風以外のものだ。加えて価格も他の麺屋と大きくは変わらない

割烹のイメージからの逸脱ぶりが妙に心をくすぐってくる。取っつきたさしか感じない。

特に「ポルチーニオイルのまぜそば」が気になったので注文した。言い換えれば「割烹が週5時間だけ作る洋風まぜそば」である。もはや何回ひねりかもわからない大技だ。ちなみにプラス50円で中盛250g、100円で大盛300g、200円で特盛400gが選べるらしく、今回は中盛を頼んだ。

注文から10分ほど経って丼が登場。麺がそっくりパスタに入れ替わっても違和感がないような上品な仕上がりが目に映る。

底の方に溜まったタレとよくかき混ぜてから麺をすすってみると……

最初に舌が感じ取ったのはさっぱりとした醤油の味。出汁の効いた味わいがありつつ、むろんそれだけでは終わらず、そこへ即座にポルチーニオイルの風味がかぶさってくる。バランスを崩すような強引さではなく、深みを与えるような適度な加減だ。

この旨味豊かなタレと、ツルツルモチモチした麺の相性が素晴らしい。イタリア産の高級ポルチーニ茸が使われているというだけあって、今までに味わったことのない新機軸のまぜそばだが、舌にすぐ馴染んでこちらを引き込んでくる。

やはり「洋風まぜそば」という表現が一番近いと感じる。形態としてはまぜそばでありながら、いわゆるまぜそばのようなゴテゴテのジャンキーさではなく、格調高いハーモニーでうっとりと楽しませてくれる一品となっている。

そしてそれを成しえているのは、繊細かつ洗練された、割烹としての高い技術力なのだと思う。ひねりを加えつつも最後にはそこに着地してみせてくれるのが、客としては実に安心感があって心地良い。

割烹が取っつきづらくとも、こうしてまぜそばを通じて、お手頃な価格で割烹の本気を味わえるというのは何とも粋である。営業時間に合わせるのが少々大変ではあるが、皆さんにもぜひ「一龍庵」が垣間見せる別の一面に触れてみてほしい。

・今回紹介した店舗の情報

店名 麺処一龍庵 池袋本店
住所 東京都豊島区西池袋3-25-6
営業時間 水・木 11:30~14:00(L.O14:00)
定休日 日・月・火・金・土

Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

▼「割烹が週5時間だけ作る洋風まぜそば」こと「ポルチーニオイルのまぜそば」

▼タレと麺の相性が抜群

▼形は違えど割烹の本気が味わえる一品

日本、〒171-0021 東京都豊島区西池袋3丁目25−6