突然ですが本来であれば、私は今ごろメキシコにいるはずだった。サンフランシスコから陸路で南下する気ままな南米3カ月の旅。「そろそろキューバへ渡ろうかな?」とか考えている頃だったろうに……まぁ、それはいい。

旅人たちのバイブル『地球の歩き方』が、4月1日〜5月31日の2カ月限定で主要5シリーズ全185タイトルの電子版を読み放題とするサービスを敢行した。嬉しいがご存知のとおり新型コロナウイルス騒動により、海外への渡航へは厳しく制限されているのが現状だ。

「地球の歩き方一気読み」などという行為に出れば、 “旅行したい欲” が極限まで高まるであろうことは必至。 “ヘビの生殺し” ともいうべきモンモン状態へ我々をいざなうつもりなのだろうか? 真意を伺うべく、憧れの「地球の歩き方編集室」へ電話してみることにした。

・お世話になってます!

ちなみに今回のキャンペーンはamazonの『Kindle Unlimited』サービスの一環。これは対象電子書籍が読み放題となるもので月額980円(税抜)だ。一冊あたり約2000円ほどの『地球の歩き方』が読み放題とくれば相当安いが、なんと初回30日間は無料だから実質タダである。

世界中でスマホを使えるようになった今でこそ海外旅行のハードルはグッと下がった。しかしひと昔前などは『地球の歩き方』の情報がなければ死んでいた旅人もいるに違いない。このシリーズが旅本界の王座に君臨し続けていることは、日本人なら誰しもが知るところだろう。

震える手で「歩き方編集室」の番号へダイヤルする。「編集部」ではなく「編集室」なのも、なんとなくインターナショナルな雰囲気がしてイイんだよね! お話をきかせてくれたのは担当の奥(おく)さんだ。


──『地球の歩き方』はいつから電子書籍に?

奥さん「電子書籍自体は2014年から有料で配信していましたが、読み放題は初の試みです」

──185タイトル全てとは、かなり大きな決断ですよね。どういう想いで読み放題に踏み切られたんでしょう?

奥さん「今は自宅にいることが求められていますので、海外旅行は軒並み自粛であったり中止、延期を余儀なくされています。実は、今年のゴールデンウィークってすごくいい日並びなんですよ。30日・1日または7日・8日と休めば普通に8~9連休、最大12連休という人もいる。ですから旅行の予約は例年より多かったと聞いています。そんな中こういう状況になってしまったことは非常に残念ではあります。が……

『我々に今できることは何だろう?』と考えたときに、やはり自宅で本を読んでもらって、コロナ終息後の旅のプランを考えていただくことかな、と。それから今は学校もお休みですよね。ガイドブックには歴史や地理に関連したことがたくさん書いてあります。ご家庭でお子様と一緒に自由研究のネタに使うといったようなこともあるかな〜と思いまして始めました。まぁ、実際の旅に行くときには、紙か電子で買っていただけると嬉しいですね」

──う〜む、ありがたい……!


・椅子に座って空想旅行


──最近SNSなどで「空想旅行」や「架空旅行」といったことをやる人をよく見かけます

奥さん「いいですね。以前より『アームチェア・トラベラー』と言う言葉があります。アームチェア(肘掛け椅子)に座ってガイドブックや旅雑誌を読みながら、旅に行った気分を味わう。いわば脳内旅行という意味です」



── “『地球の歩き方』を読んで旅行した気分になる” というのは、私よくやります(笑)

奥さん「そういう読者は非常に多いと思いますね。女性向けの『aruco(アルコ)』の投稿には『会社で嫌なことがあったので、書店で買いました。今は、旅に行きたくなって気分転換できました!』というような読者はがきをよくいただきますよ。

また今回は、例えばグアムなどを例に挙げると……当社では通常の『地球の歩き方』と『aruco』、それから現地でのアクティビティに特化した『リゾートスタイル』など、行き先は同じでも複数の本が出ています。それぞれ情報が違っているので見比べていただいたり、自分のスタイルに合った本をチョイスしてもらうといいですね。もちろん全て今回のキャンペーンに含まれています。

あと個人的には『アメリカの国立公園』というバージョンをオススメしておりまして……それぞれの国立公園の歴史や歩き方が非常に丁寧に書いてある本です。国立公園に興味がある人にしか買ってもらっていませんが(笑)。この機会にアメリカの国立公園をアームチェアトラベルしていただいたりすると面白いかなぁと思います」



── 今オススメの国はどこなんですか?

奥さん「現在は “日本から2時間半で行けるヨーロッパ” というキャッチフレーズで、ウラジオストク(ロシア)が人気上昇中です。とにかくロシアは狙い目ですね。これまでは日本人にとって空白地帯だったと思うのですが、すごく面白いですよ」

──ロシアですか! 以前ビザの取得が大変で断念した覚えがあります

奥さん「おっしゃる通りです。しかしロシアは最近、地域限定で電子ビザが導入されたんですよ。簡易にビザが取得できることもあって伸びてきたかたちです」


・原点はインド

実は昨年で40周年を迎えたのだという『地球の歩き方』シリーズ。私が物心ついた30年前には実家に数冊置かれていた記憶があるため、正直もっと昔から出版されているものだと思っていた。

地球の歩き方・インド編の「復刻初版」が最近出版されていたことを知り、私は今回それを真っ先に読んだ。「インドへは選ばれた者しか行けない」という話をきいたことがあるが、みんなそんなにインドに興味があるのだろうか? ちなみに私は去年行ってきたもんね〜!


奥さん「『地球の歩き方』はヨーロッパとアメリカから始まったんですが、3番目に出したのがインドです。インドに実際に行く人以外にも、買って読んでいただける方は非常に多いんですよ」

──行かないけど読む、っていうことですよね?

奥さん「そうですね(笑)。でもなんとなく『行ってみたい』と思っている人がとても多い旅先でもあります。それでこのインドの初版というのが『地球の歩き方』を方向づけた本でもあるので、復刻版というかたちで2018年12月に出しました」

──奥さんも取材で海外へ?

奥さん「ええ。時々ですけど」

──歩き方ファンは「どうやって作っているのか」が気になるところだと思うのですが

奥さん「基本的には改訂版を出すたび、お願いをしているプロダクションさんや私たちが現地へ取材に行って作っています。情報収集に関しては……事前の下調べはもちろん、協力いただいている旅行関係の方々や現地の方々など、これまでに蓄積した人的なネットワークを活用しています」

──コロナウイルス騒動による影響はありますか?

奥さん「取材はいったんストップになってしまっています。ですので、今は取材のための下調べを念入りにしたり、新しい企画を考えるなどしています」



──最後に個人的な質問で恐縮です。コロナが収束したら南米か東ヨーロッパへ旅行を考えていまして……世界を知る奥さん的にはどっちがオススメですか?

奥さん「……亀沢さん、まだ若いですよね?」

──いや30代中盤です

奥さん「それなら若いですよ。一つだけ言えるのは、体力があるうちに遠くへ行ったほうがいい

──キツくなってきたな、とかあります(笑)?

奥さん「ありますね……それは、あります(笑)」


・どこへでも行ける本

そういえば「『地球の歩き方』を手に持って海外を歩くと危ない」という話をきいたことがある。あまりにも有名な旅本ゆえ、「旅行者です」と宣伝して歩くようなもの、というのが理由だ。泣く泣くページを破り、必要な部分だけを腹に隠す行為はすっかり習慣となった。

正直なところ昭和生まれの私は「できれば紙の本がいい」という感覚がまだ抜けないが、そういった「旅の安全や効率化」という意味では電子書籍に切り替えたほうがいいのかもしれないな〜。実際Kindleも紙同様にサクサクと読めるし、旅先で購入可能な点も嬉しい。

……などと現地での活用法を考えてみたところで、いつ日本を飛び立てるか先が見えないのが現状だ。旅行者にとっても辛い日々は続くが、この編集室の想いに溢れた今回のキャンペーン、存分に活用しつつ今は来るべき日を待とう!

参照元:地球の歩き方公式サイト
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.