この世には色々な記念日があるけれど『うどんと和菓子を一緒に食べる日』とはなかなか珍妙……だよね? みんなひょっとして知ってた? ……調べたところ昨年制定されたばかりの記念日らしいな。ってことは記念日自体を知らなくても仕方ないよね!

とはいえ「うどんと和菓子を一緒に食べる」という行為そのものも、私は1ミリも聞いたことがない。そもそも「一緒に」って何だ? うどんと和菓子どちらが先なのだろう? 同時に口に入れるの? まさか混ぜるとでも言うのだろうか?

「うどんと和菓子を一緒に食べる」ことはやぶさかではない。しかし正しい作法を知らずして記念日を祝うなどできるはずもないだろう。よって真相を探るべく、記念日を制定した広島の老舗チェーン『ちから』に直撃電話取材を敢行してみたぞ!

・広島のソウルフード

『ちから』ではうどんや軽食・和菓子に加えてラーメンも人気メニューらしい。私は比較的広島と近い鳥取の生まれだけど全然知らなかった……それもそのはず、『ちから』の約30にも及ぶ全店舗は広島県内のみに集中しているのだ。

普通それほど成長したら県外進出を考えそうなものだけど、あくまで広島にこだわるその姿勢、なんか好感が持てるなァ…………あっ、もしもし『ちから』の広報さん? 「うどんと和菓子を一緒に食べる」という文化は広島ではポピュラーなのでしょうか?



広報さん「当社創業の昭和10年から『うどんと和菓子をいっしょに食べる』という食文化を独自に展開したものですが、創業から85年経過しておりますので、広島市ではある程度認知されています。うどんと和菓子類を一緒にご注文されるお客様も少なくないですよ」

──なんと『ちから』さん発祥の文化だったんですね! 85年を経た今あえて記念日を制定した理由はなんですか?

広報さん「テレビ番組で紹介された影響などもあって近年、広島以外からもお問い合わせがあり、広く認知していただくため制定いたしました」

──どういった和菓子をうどんと合わせればいいんですかね?


広報さん「そうですね、当社商品では通年商品として『おはぎ』『あん入りきなこ餅』『あん無しきなこ餅』をおすすめしております」


・奥深き和菓子の世界

レアな和菓子を出されるかと不安だったが、『おはぎ』と『きなこ餅』なら和菓子界では相当なメジャー選手だ。現在東京から広島への移動は自粛が推奨されているため、今回は『ちから』に助言をいただきつつ自宅でうどんと和菓子を食べてみることにしようと思う。さっそく近所の和菓子屋へGOだ。


…………


ところが!


和菓子屋で「おはぎひとつ」と告げると、店主は困った顔で「おはぎは7月」と答えたではないか。おまけに「今は柏餅の季節だよ」などと言い出す始末……恥ずかしながら小生、和菓子にもシーズンがあることを今回初めて知ったのである。

この日、3軒の和菓子屋を回ったが結局おはぎは見つからなかった。お盆の時期は地域によって異なり、東京では7月とするケースも多いため「おはぎは7月」ということになるのだろう。ウ〜ム、勉強になった。ちなみに専門店などでは通年おはぎを扱っている模様だ。


「和菓子屋に通う粋な若者」ヅラしていた自分を恥じつつ、この時期オススメだという『柏餅』『水ようかん』『くずざくら』といった和菓子を購入。聞いたところ本件において和菓子の種類に制約はないらしいから、各自好みの和菓子を用意すればOKだろう。


・「広島のうどん」とは

お次はうどんを用意せねばならないが、広島は讃岐と博多のちょうど中間に位置している。果たして広島のうどんとは “どっち寄り” なのでしょうか……?


広報さん「当社のうどんの発祥は大阪です。その暖簾分けで、1935年(昭和10年)に広島で創業いたしました。だしは、雑節(ざつぶし)と呼ばれるさばやいわしの削り節と、北海道利尻昆布で取る澄んだ薄い色の関西風です。麺はだしに絡みやすい柔らかさで、もちもちしています。定番のトッピングは、肉・カレー・天ぷら・玉子とじ・甘辛あげなどです。

ご当地めん類として『広島うどん(広島のうどん)』という定義は明確にはなされていないと考えますが、讃岐うどんのコシのあるめんと、博多うどんのやわもちめんの中間が広島のうどんと捉えるとわかりやすいかと思います」


……まさに讃岐と博多の中間だった広島のうどん。電話の雰囲気だけで再現するのは難しそうなため、ここは冷凍うどんを気持ち長めに煮ることでご容赦願いたい。ダシは関西風とのことだから市販の『関西風うどんスープ』を使用だ。

和菓子もうどんも「本場を忠実に再現」とはならなかったが、その点に関してはもう近々広島に行くしかないだろう。まぁ”うどんと和菓子” という点はクリアしてるワケだから及第点だよね? それじゃ、いただきま〜す!



……で、順番は…………?


広報さん「特に作法などはありませんよ。お好きな順序で召し上がっていただけたらと思います。ちなみに『ちから』 店舗でお召し上がりになる場合、うどんよりも先に和菓子をお客様にお持ちいたしますので、和菓子を一口食べて、うどんが来たら食べて、最後にまた和菓子を食べる方を多く見受けます。

冷たいうどんでも結構なのですが、どちらかというと温かいうどんのほうが合う気がしますね。中華そばといっしょに食べる方も多いです」


へー! ”うどんの前に和菓子が運ばれてくる” って珍しい気がするけど地域によるのだろうか? そういうことならまずは和菓子からいってみようじゃないか。祖母が亡くなってから柏餅を食べる機会は減っていたが、長い間食べなかったことを疑問に感じるほどウマい。


次にうどん……



和菓子と見せかけてうどん……



和菓子……



別の和菓子……



再びうどん……


・違和感ゼロ

「珍しい習慣」という前提を忘れるほどあっさり食べ終えてしまった理由を自分なりに考察してみると、そもそも和菓子・洋菓子・スナック類などをひとくくりに『お菓子』と捉えていることに問題がある気がしてきたのだ。

仮にこれがケーキだった場合、食後はいいけど食前は絶対にダメだ。でも和菓子ならウマい……これってつまり “和菓子=食事の一部” と捉えていいってことになるんじゃないのかしら? 考えてみれば我が家のすき焼きはこの柏餅より甘い。それを白米に乗せて食べているのだから、 “うどんと和菓子” が合うのも何ら不思議はないといえる。

うどんがおいしい。和菓子もおいしい。一緒に食べれば2倍おいしい……なんだか悟りが開けた気分だぜ!


広報さん「
もともとあった文化では無いですし、『うどんと和菓子をいっしょに食べる』ことを特別に広島の方が好きというわけではないと思います。ですが、一緒に食卓に並んでいても違和感はない感覚はあるんじゃないでしょうか。

和菓子とうどん。この一見ミスマッチに見える2つの食べ物ですが、実はとても良く合います。うどんだしの旨味と若干のしょっぱさ、和菓子のほんのりした甘さがお互いの味を引き立て合うのかもしれません」


本日6月10日は去年制定されたばかりの『うどんと和菓子をいっしょに食べる日』。ひょっとして数十年後はメチャ当たり前の組み合わせになっているのかもしれない?


参考リンク:うどんと和菓子 ちから
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24. / ちから本店

▼広島といえばもみじまんじゅう! ……だけではなく、広報さんいわく「毛利の時代からある “川通り餅” が特に有名」とのことだ