私は今日という日をどうしてもスルーすることができなかった……本日5月23日は『世界亀の日』。おまけに今年が制定20周年の節目なのである。「亀沢」という名を持つ私は人から「カメちゃん」などと呼ばれることもあり、とても他人事とは思えないのだ。

この日は「亀に関心を向け、知識を深め、敬意を払うべき日」だという。 “迷い亀を保護する” とか “公園にミミズを差し入れる” 等の活動が理想なのだが、外出自粛が推奨される都内の現状。いっそガメラのソフビ人形を買おうか? いや待て、それも外出か……う〜む。

亀について調べを進めるうち、通販で「カメノテ」が購入できることを知った。カメノテは私の生まれた日本海ぞいの海岸にモジャモジャと生息していたが、食べようとしたことはただの一度もない。恐らく今日を逃せば購入チャンスはないだろう。

・亀の「手」じゃないよ!

カメノテについて私は「海のコケみたいなもん」という認識でいた。しかし冷凍状態で届いたソレは、地元の海岸で見ていたものより数倍大きい。

都会育ちの人に「カメノテだよ」と見せたら確実に「亀さんの手」と誤解する絶妙なサイズ感とフォルムなので、イタズラに悪用することのなきよう!

水にさらして解凍し、汚れをとると……


ヒッ! ブニョブニョの触感!!!


思わず「キモい」と感じてしまったことは申し訳ないが、事実だから仕方ない。ザラザラした鱗片とブニョブニョの対比はまるでトカゲのようだ。苦手な人はイメージトレーニングしてから触るのが賢明だろう。

塩をふった水を火にかけ、アクを取りつつ5分ほど茹でるとしだいに磯の香りがプンプン漂ってきた。地域によりカメノテは味噌汁の具として重宝されているのだそうで、身からしみ出た黄金色のダシにも期待が持てそうだ!


・出たっ!

調べたところカメノテは ”爪” のように見える「殻板」と、 ”皮” っぽい「柄部」の境目を外して中身を食べる、というものらしい。

「鉄壁のガード」といった雰囲気の殻をそう簡単に外せるのだろうか?

とりあえずツンツンしてみたら……


パカッとあっさり外れた!!!!!


加熱で縮んだのだろうか? ギュッと締まったピンク色の身が姿を表し、亀の手というより「鳥の足」といったビジュアルに変貌を遂げてゆく。

これを最初に食べた人に敬意を表したい……。


・ザ・珍食材

「エイッ」と思い切って口に入れたカメノテの身は想像よりクセがなく、味という点で食べられない人は少ないのではないかと思う。しかし「おいしいか」と問われれば……メチャクチャウマいと言ったら嘘になるし、かといってマズいわけでもない。

多少噛みちぎりにくい程度の弾力はあるが「歯ごたえ」というほどでもないし、この味を何かに例えるとすれば「シジミの白い部分」といった感じだろうか? ただしこれは冷凍カメノテであるため、生のものは全然違うということもありえる。今度地元へ帰ったら捕りに行ってみよう。

たとえば同じ “珍味カテゴリー” の「ホヤ」に関していえば、トシをとってからその魅力に気づく人も多いのだという。カメノテも食べ続けることによって味わいを増すタイプの食材なのかもしれないな。


ところで爪の中をよく見れば、底にまだまだ身が詰まっているようだ。ほじくってみればツルリと中身が……


デターーーーーーーッ!!!!!


爪先に位置するカメノテの先端はまるで「悪魔のイカ」「漆黒のメドゥーサ」「恐怖! 海ムカデ」とも形容すべき、おっそろしいビジュアルをしていたのである。これぞ生命の神秘……!

しかしどこを調べてみても毒がある等といった情報はない。そもそもそんな危ないものが販売されているハズもないため、こちらもエイヤッと口に放れば……相変わらず何とも言えない味がした。


・海を飲んだことはあるかい

さてお待ちかね、タップリとれたダシはスープのほかに、カレーや麺類にも適しているとのこと。今夜は世界中の亀たちに敬意を表し、カメノテパーティーとシャレこもう。

メインディッシュはしょうゆと塩でダシをととのえた、特製の「カメノテうどん」だ。


う〜〜〜む、ウマい!!!


ダシ全体から香る磯の風味はもはや磯を通り越して「海そのもの」といっても過言ではない。夏の訪れを感じるとともに、沿岸部育ちの人は故郷を思い出し感慨にふけることだろう。


全ての人に「取り寄せてでも食べて」と言える自信はないが、子供たちが捕ってくれば家族一同喜んで食べる……個人的にはカメノテって、それくらいの立ち位置であるように思う。「海へ行く機会があれば食べてみよう」と、心の片隅にメモしておいていただければ幸いだ。その際は漁業権に注意するのをお忘れなく!

なお身を取りのぞいたカメノテは乾燥させて加工すれば何かに使えそうだ。いいアイデアが浮かぶまで、とりあえず植木の下に置くことにしよう。これを見るたび私は故郷の海と、世界中の亀のことを思い出すに違いない。

Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

▼砂などが付着しているため水洗いは入念に

▼バナナみたいなのも