『ズッコケ三人組』の存在がなければ、私(K.Masami)の子ども時代は、随分とツマラナイものになっていただろう。友だちらしい友だちはほぼいない記者だったが、本を開けばハチベエ・ハカセ・モーちゃんがいる。

それだけで日々の景色は鮮やかになり、ワクワクし、明日も頑張る活力となったものだ。もちろん大人になった今でも変わらず大好きだ。というか大人になればなるほど、ジワジワ染みてくる作品であるように思う。

・人生を幸福にしてくれました

今さら『ズッコケ三人組』について、説明するまでもないだろう。なんてったってズッコケシリーズは2004年に50巻で完結するまで、26年にわたり書き続けられた作品だ。累計発行部数は、児童文学として戦後最大を叩き出している。

完結後もその人気は衰え知らず。主人公たちが大人になった姿を描いたシリーズもまた、評判を呼んだことは記憶に新しい。しかしとても悲しいことであるが、作者である那須正幹さんは2021年7月22日に肺気腫で死去。

もっともっと、新しい那須作品に触れたかった。残念という言葉では表現しきれない、虚しさを感じている。だがきっと、那須さんの作品は人びとの血となり、後世まで歴々とつながっていくことだろう。

まずは長くにわたり、唯一無二な作品を数多く遺してくださったこと、心からお礼を伝えたい。おかげさまで、人生がひとつ、幸福になりました。本当にありがとうございました。


・現実と向き合う強さを学ぶ

ここ最近は、ぼちぼちとズッコケシリーズを読み返している。子どものころの記憶は恐ろしいもので、内容をほぼほぼ覚えており次の展開を知っていながら、やっぱり面白い。

毎回同じ場面でツッコミ、同じ場面で笑ってしまう。色褪せない作品というのは、こういうもののことを言うのだろう。その魅力を挙げればキリがないが、なによりズッコケに登場する子どもたちは、大人が理想とする子どもでないところが好きだ。

登場人物のハチベエ・ハカセ・モーちゃんをはじめ、同シリーズに出て来る子どもたちは悪いことも平気でする。大人相手でも平気で嘘をつくし、ダメと言われたことでもやる、人をだますことだってある。

また逆も然り。大人はこうあらねばならん、という枠にもとらわれていないのだ。そうであるが故に、ああ良い話だったな、とは思えない展開になることもままある。読了後、悲しい気持ちになったり苦しい気持ちになったりもするのだ。

生きていくのは楽しいことばかりではないことを、ズッコケシリーズから日々学んでいる。現実から目を背けず向き合う強さが、作品には詰まっているのだ。


・みんな違って当たり前

またハチベエ・ハカセ・モーちゃんそれぞれ、全く違う性格をしており一見すると仲良くなれなさそうであるのに、ツルんでいるところも好きだ。

やんちゃでスポーツ万能なハチベエ、博識で勉強好きなハカセ、のんびりしていて優しいモーちゃん。それぞれに趣味嗜好がバラバラでありながら、なんとなく一緒の時間を過ごし、お互いにないものを補い合っているところが良い。

みんな違って当たり前で、違うからこそバランスを取ってより豊かになるのだとズッコケシリーズを読んでいると、ひしひしと感じる。子どもだけでなく大人にも気付きをたくさん与えてくれる作品だ。

ひとことでも、ふたことでも言い表せない『ズッコケ三人組』の魅力。記者がいちいち挙げるまでもなく、みなさんの心の中にもそれぞれのズッコケ像があるだろう。

もし長らく作品から離れていたという人がいれば、久しぶりにページをめくってみてはいかがだろうか。そこには、いつもと変わらないハチベエ・ハカセ・モーちゃんの姿がある。

そして今読むからこそジワッときて、ハタとさせられることがあるはずだ。そうして、時を越えて那須作品は脈々と、誰かの大切な存在となり受け継がれていくだろうと確信している。改めて、かけがえのない作品を生み出してくれた那須さんに感謝の意を表します。

参考リンク:ポプラ社『ズッコケ三人組』
執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.