先日、「Linkin Park」のボーカル、チェスター・ベニントンの自殺が報じられた。親交のあった「Soudgarden」のクリス・コーネルが2カ月前に自殺しており、その誕生日にチェスター・ベニントンが命を絶ったことに衝撃を受けた人も多いことだろう。

有名ミュージシャンの自殺が相次いでしまったが、より激しい音楽とされるデスメタルやブラックメタルでも自殺はよくある。しかしバンドが世間的に知られるほど有名でないため、一般ニュースで報じられることはない。特にブラックメタルのサブジャンルの中には「自殺ブラックメタル」と呼ばれるものがあるぐらいで、自殺とメタルの親和性は他の音楽ジャンルに比べて強いと言っていいだろう。

さて今回は、自ら命を絶った有名デスメタラー、ブラックメタラーでも特に印象的だったり、有名な事例を10件紹介しよう。

・陰鬱なメロディとパフォーマンス

自殺ブラックメタルは通称「鬱ブラック」、「デプレッシヴ・ブラック」とも呼ばれ、英語では「Suicidal Black Metal」、あるいは「Depressive Suicidal Black Metal」と表記される。有名どころでいうと「Silencer」や「Lifelover」、「Happy Days」などのバンドがいる。

悲痛に叫ぶボーカルや陰鬱なメロディ、そしてステージ上での自傷行為的なパフォーマンスが特徴だ。実際に自殺願望が強く、自殺を遂げてしまったミュージシャンもいるくらいだ。

・Dead

まず名前からしてDead、つまり「死」である。ブラック・メタル界の『自殺』で最も有名なのは、ノルウェーの「Mayhem」のヴォーカルのDeadで異論はないはずだ。1991年に22歳で自殺。元々過激なパフォーマンスや奇行で知られた人物だったが、ショットガンで自らの頭を撃ち抜いた。

なんとその直後の様子をバンドメンバーのEuronymousが写真に撮影し、その写真をライブブートレッグアルバム『Dawn of the Black Hearts』のカバーに用いたのだ。さらに当のEuronymous自身が、1993年に「Burzum」のメンバーに殺害されたのは、ブラックメタラーであれば誰でも知っている有名な話。

・Jon Nödtveidt

スウェーデンのメロディアスブラックメタル「Dissection」の中心メンバー。2006年に自殺、享年31歳。このバンドはそのメロディの美しさで後続バンドに大きな影響を与えるが、Jon自身は過激な人物で、1997年に殺人幇助の罪で懲役8年の判決を受けた。元々、サタニストとして絶頂期に自殺することを公言していた。

・Martin Funderud

ブラックメタル大国ノルウェーで、ほぼ唯一世界的に評価されたブルータルデスメタルと言っていい「Kraanium」のヴォーカル。2017年の4月20日に自殺、享年38歳。同日にニューヨークのブルータルデスメタル「Internal Bleeding」のドラマーが消防活動中に殉死し、世界のブルータルデスメタルシーンでは2つの悲報に襲われた。

なお「Kraanium」にはMartinの双子の兄Matsが在籍しており、2017年9月の下旬にはアジアツアーの一環として、日本でもライブを行う予定である。

・Ploegbaas

オランダのブルータルデスメタル「Brutus」のドラマー。2006年、25歳の時に電車に飛び込み、自ら命を絶つ。元々ブルータルデスメタル界隈では、その超絶高速なドラミングで人気があった。同年レコーディングされたアルバム『Murwgebeukt』が、10年後の2016年にリリースされたのだが、時間の経過を全く感じさせないほどブルータルな出来で、高評価。

・TOTTSUAN

日本が生み出したグラインドコアの創始者「SxOxB」のヴォーカル。1995年に鉄道自殺。日本のアンダーグラウンドシーンは衝撃に包まれた。今でもカリスマ扱いされている人物だ。

・Joe Lombard

暗黒系デスメタルの創始者のひとつとして知られるオハイオのバンド「Incantation」で、2001~06年までベーシストを務めていた。脱退後の2012年に42歳で自殺。

・Adam “Blackula” Young

父と娘がメンバーであることが売りの、米インディアナ州出身のグラインドコアバンド「Sockweb」に在籍。2016年に首を吊った状態で発見された。享年29歳。残された娘「Joanie “Bologna” Young」は2007年生まれで現在10歳だが、特に別のバンドを始めてはいない模様。

・Joe Ptacek

シカゴの伝説的なブルータルデスメタル「Broken Hope」のリーダー。2010年に拳銃自殺、享年37歳。そのガテラルヴォーカルは一部のマニアから絶大な支持を得ていた。現在このバンドのボーカルは、ポーランド生まれの「Damian “Tom” Leski」が務めている。

・Bill Bumgardner

「Lord Mantis」や「Indian」などスラッジ系バンドのドラマー。2016年の10月に35歳で自殺。「Lord Mantis」はかなり人気のあるバンドだったが、Billの死によって解散に追い込まれた。

・Tom Sedotschenko

ジャーマンゴシックとして一定の人気を得ていた「Evereve」のヴォーカルとして、1993~98年までバンドに在籍。1999年に28歳で自殺。バンドは継続したが、Tomがボーカルを務めていた頃にリリースされたアルバムがバンドの絶頂期だとするファンが多い。

ここまで紹介していると気が滅入ってくるが、海外のデスメタル・ブラックメタル系ニュースサイトを見ていると、度々訃報が流れてくるため、全てを把握するのはなかなか難しい。

・この他にも

筆者が特に詳しいブルータルデスメタルのジャンルだけでも、他にも「Expurgate」のFuckin’ Ianや、「Human Excoriation」のRex “Buckshot” Taylor、「Scordatura」のMark Scobie、「Ossuary Insane」のKris “Kringle” Jacobsen、「Obscura」のJürgen Zintzなどの自殺者がいる。

そこまで精通しているジャンルではないので、調査をするのが難しかったが、より暗黒さや陰鬱さが激しいブラックメタルでは、さらに膨大な数の自殺者がいるはずだ。自殺者の苦しみを他人が計り知ることはできないが、願わくば死によって人々を悲しませるのではなく、音楽で感動をもたらして欲しいと願うばかりである。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24

▼ブラックメタルに絶大な影響を与えた「Mayhem」のメンバーDeadとEuronymous。2人が生きていた頃の貴重な動画

▼スラミングデスメタルの中ではとても人気があった「Kraanium」。ドラマーが本記事で紹介している「Mayhem」のTシャツを着ている

▼2006年に撮影されていた動画を2016年に発表した「Brutus」。よくお蔵入りにならなかったものである。ブラストビートが鳴りっぱなし