新型コロナウィルスの流行で、もはや下着並に着用していることが当然とされつつあるように感じるマスク。手に入りやすくなったという噂も聞くが、筆者の生活圏内のドラッグストアには相変わらず売られていない。正規なマスクを見ない反面、見かける頻度があがったのが、怪しげな販売スタイルのマスクだ。

十中八九、転売禁止で在庫を抱えた転売屋だと思うが……シャッターが下りた店舗の前や路肩などで、ゲリラ的に展開されているマスクの露店は、少なくとも都内ではわりと見かける。中には移動販売車スタイルも出ているようだ。そんなある日、ついに手作りのチラシを個人宅に投函してまわる闇マスク売人まで出た模様。

・転売屋

それは、少し前に筆者の自宅の郵便受けに投函されていた。「マスクあります」からはじまり、下には枚数と値段。そして、恐らくはチラシの制作者にしてマスクの販売人と思われる人物の苗字と、携帯の電話番号が手書きされている。

「マスクあります」の「マスク」の部分がマジックだかで太く書かれているところ。また値段の書き方が「3,700.円」と、数字と円の間に「 . 」が入っているところ。そして携帯番号の書式が「ケイタイ090.〇〇〇〇.〇〇〇〇」であるところが特徴的だ。ハンドメイド感あふれる安っぽい仕上がり。

紙の端がまっすぐではなく、自分で裁断した感がある。きっとコンビニでA3サイズに4等分で刷って、ハサミ切ったんだろう。一応右には、売られているマスクのものかどうかは不明だが、マスクのパッケージの写真が。ちなみにラインアップは以下の通り。


50枚入り 3700円

10枚入り 900円

1枚 100円


チラシにプリントされているマスクは『3層プリーツ MASK 10枚入り』というもの。もし売っているのがこの写真のマスクと同じものであれば、10枚入りを買ったらそのまま1パック。50枚入りなら5パック。そして、1枚の場合は開封した中から1枚……と言う感じになるのだろうか。


・コンタクト

郵便受けからこのチラシが出てきた時の率直な感想としては「電話してマスク買うやつなんていないだろ……」や「こんな得体の知れないマスク使いたく無いっての……」といった感じ。端的に言うと「キモい」

が、同時に好奇心を刺激されるのもまた事実。こんなスタイルで売ろうというのは、超高確率で闇マスクの売人。怪しすぎるクオリティのチラシに疑問を抱かなかったのか? こうまでしなければならないほどに追い詰められているのか? 

年齢は? 性別は? 普段は何の仕事をしているのだろう。色々と興味が尽きない。ここは電話してマスクを購入しがてら、詳しく話を聞いてみたい。ということで、電話してみることに。

しかし、恐らくは徒歩なり自転車なりでチラシを投函して回ったのだろうから、この人物は筆者の近所に住んでいる可能性が高い。そして同時に、ろくでもないヤツである可能性も高いと感じる。言葉は悪いが、この人物が超高確率で闇マスク売人である以上、そう見なすのは真っ当なことだと思う。

幸い筆者は家に表札を出していないので、取引に応じたからと言って、尾行されたりしない限り自宅を知られる可能性はそこまで高くないだろう。それでも普通に電話したら電話番号を知られてしまう。それは避けたい。

ということで、スマホの設定から非通知にして……


電話をかけること何度か


……


……


……


……


出ない


一応マナーモードになっていて気づいていないという可能性も考え、1時間ほど待ってから再度コールしてみるも……やはり出ない。根気よくかけ続けていると、ついには「おつなぎできません」になってしまった。


着信拒否にされたのでは?


・届かぬ想い

チラシを入れてきたのは向こうなのに、着信拒否とはなんという。お前はマスクを売りたかったのではないのか? 電話に出ないなど、せっかくの商機を逃してしまうぞ? まさか……筆者の近所では予想外にこの怪しすぎるチラシに反応する人続出で売り切れたとか?

流石にそれは無いと思いたい。普通あんなチラシは捨てるだろう。もしも近所の住民たちがあのチラシを見て嬉々としてマスク購入に走ったりしていたら、彼らの正気についての認識をあらためねばなるまい。筆者こそが電話をかけた唯一の人間な自信がある。

まだ諦めるのは早いと考え、今度は公衆電話からかけてみることに。しかし何度かかけるも、やはり出ない。



その後も所用で移動しつつ、公衆電話を見かけるたびに闇マスク屋に電話してみたところ……


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電話の電源落とされた模様

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ついに闇マスク屋は電話の電源を切ってしまったもよう。そのあとも数時間あけてまた公衆電話からかけてみたが、緑の受話器から流れるのは「電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、かかりません」という音声ガイダンスのみ。

結局最後まで、筆者がこの闇マスク販売人にコンタクトをとることはできなかった。この先マスクの競争率が今より上がることはほぼ無いだろう。闇マスク売人がいかなる人物だったのか知るチャンスは、永遠に失われたと言っても過言ではない。


・案外普通の人な可能性

だが……こうしてチャンスが断たれてからあらためて考えてみると、どうだろう。当初は、そもそもマスクの転売屋の時点でろくでもないヤツであり、また、どう考えても微妙な出来のチラシを配り歩くなど、ろくでもない奴らの中でも相当にヤバいヤツだと思っていた。そのくせ電話に出ないなど、あまりに意味不明だと。

しかし冷静に「なぜ売人が鳴り続ける電話に出なかったのか」を考えたら、そこまでろくでもないヤバいヤツという訳では無いのかもしれない……とも思えてきた。色々と思考やセンスが常軌を逸しており、自作のチラシで闇マスク転売業の成功を確信するような人物であれば、待ってましたとばかりに電話に出たはずだ。

そうではないことから、この人物がそこまで異常な人物ではなく、やや金に汚い他は普通な人物だった可能性を感じるのだ。抱えてしまった在庫。報道などで悪いイメージもぶっちぎりなマスク転売。売りさばける可能性は限りなく低いだろう。

藁にもすがる思いで、突如として思いついたチラシを配る作戦に飛びついたのではなかろうか。人と言うのは、追いつめられると自分でも正気とは思えないような行動に走るものだ。そして、いざ自らの苗字と携帯番号入りのチラシを配ってしまってから後悔したのではなかろうか。

マスク転売ではなくとも、突発的に正気を欠くような行動に出てしまい、後悔するという経験は誰しもあるだろう。そんな中で、非通知や公衆電話から延々とかかってくる電話(かけたのは筆者だが)など、ノイローゼ案件なのでは?

最後まで筆者からの電話に闇マスク売人が出なかったこと……着信拒否にしたり、電話の電源を切ったと思われることこそ、この人物が多少はまともだったことを意味するのではないか。

全ては推測にすぎないが、この可能性はあると思うし、むしろそうであってほしい。この苗字と電話番号以外は不明な闇マスク売人は、今どこで何をしているのだろう。またそのうち、抜き打ちで電話してみてもいいかも知れない。

執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.