秋葉原の街を歩いていると、あるゲームショップの店頭から “我が人生のベストゲーム” たる『MOTHER』のテーマ曲が流れ出したので思わず聴き入った。すると横を歩く外国人女性が嬉しそうに「オー! マザー!」と叫んだではないか。

ファミリーコンピューター通称「ファミコン」が発売されたのは1983年7月15日。この時点で私も、おそらく隣を歩く彼女も生まれてはいない。しかしファミコンが人生に計り知れぬ影響を及ぼしたことは、遠い異国でも同じなのだと想像すればグッとくるものがある。

よく見るとこの店はファミコンソフトが主力商品な様子……ってことは需要があるということだ。発売から35年以上が経過した現在の売上状況はどうなっているのだろう?

・「レトロゲーム」

今回快く取材に応じてくれたのは秋葉原を中心に展開するゲームショップ『レトロげーむキャンプ』。その日は店内が混み合っていたため出直すことにした。「午前中なら空いている」と言われたのだが……


全然空いてねぇ!


1階と2階に分かれた店内は決して狭いわけではないのだが、絶えず入店してくる新規客&ソフトを眺めたまま動かなくなっちゃってる客で結局大混雑状態なのである。

客の波を避けつつ話を聞かせてくれたのは責任者の田中さんだ。どれだけマイナーなソフトの名前を出そうとも「それはですね……」と即座に答えてくれる目利きの腕は本物だが、別にレトロゲームオタクとかではないらしい。「買取り業務をしていれば自然と覚える」のだとか。


それじゃ、さっそく例の件……よろしくお願いしま〜す!


・ちょっと待って!

「お約束で申し訳ないんですが……」と、すまなさそうに田中さんが教えてくれたファミコンソフト売上トップ5は以下の通り。


1位:スーパーマリオブラザーズ1

同率1位:スーパーマリオブラザーズ3

みんな大好きスーパーマリオシリーズの1と3が同率で1位だ! 田中さんいわく「最近はニンテンドースイッチなどでタダでプレイできるから、マリオ系の売上は落ち気味」とのこと。それでもやはりこのツートップは不動なのだという。う〜ん、スゴイ!

……ところでこの結果に「ん?」と違和感を覚えたのは私だけではないだろう。ランキングの途中ではあるが、せーので言ってみようじゃないか。せぇ〜の……


「マリオ2は?」


そういえば記憶を辿ってみても「ファミコンのマリオ2」の内容が思い出せない。1と3は死ぬほどやったというのに。考えたこともなかったが、マリオ2ってとんでもない駄作なんだろうか? 逆に興味がわいてきたぞ!

しかし田中さんに「マリオ2をくれ」と申し出てみると、「今は在庫がない」との回答だ。おまけに「ハードの在庫もない」などと不思議なことを言い出したので詳しく聞いてみると……


なんと「マリオ2はファミコン本体だけではプレイできない」という衝撃の事実が発覚!!!


聞けば1986年、ファミコンの外付けハードとして「ディスクシステム」なるものが登場したそうだ。「マリオ2」はディスクシステム専用ソフトとしてフロッピーで発売されていたもよう。私はそのシステム自体を初めて聞いたが、当時を知る人にとっては常識なのかしら?

……と思ったら、ディスクシステムソフトコーナーにいくつか見覚えのあるパッケージを発見した。そういえば幼いころ「これ欲しいけどウチじゃできない」という会話をしたことがある気がするな〜。

様々な事情からあまり普及しなかったディスクシステム。今ではディスクシステム本体が希少性の高いものになっているようだ。残念だが仕方ない……ちなみに「マリオ2」はゲームボーイ等に移植されたものをプレイすることができるらしいです。


・気を取り直してベスト5

少し脱線してしまったがランキングに戻るとしよう。


2位:ゼルダの伝説1


3位:星のカービィ


4位:METAL GEAR(メタルギア)


5位:スウィートホーム


それ以外にもロックマンや……


テトリスなどといったビッグタイトルが続く。

今なお続く人気シリーズも最初は無名だった……そう考えれば感慨深いものがある。


・知られざる名作

ランキングを聞き終えたところで無視できないタイトルが1つだけあった。一度はスルーしてみたもののやっぱり気になる……お前誰だよ!



『スウィートホーム』て!


メルヘンチックなタイトルとは裏腹に、『スウィートホーム』のパッケージは完全にホラーの様相を呈している。恐ろしげな表情で描かれているのは人か? オバケか? よく見ると山城新伍によく似た赤い男の姿まで……不気味この上ないじゃないか!

値札を見れば3980円(税抜)と明らかに人気作の価格だが、一体どのへんが人気なのか?


田中さん「これは日本のホラー映画をゲーム化したものです。僕的にはランキングに入れるかどうか微妙なところだったんですけど、スタッフが『入れるべきだ』と(笑)。ソフトの絶対数が少ないので品切れになることも多いのですが、モノがあればこの価格でもすぐに売れていきますね。すごく人気の作品です」


・そこまで言わると……

なんと山城新伍っぽい男は山城新伍本人だったようだ。実写の映画や芸能人をそのままゲーム化する手法って、そういえば昔はよく見た気がする。

そこまでの名作ならプレイしてみるしかないだろう。ソフトを購入し電源ボタンを押すと……オドロオドロしい音楽とともにスタート画面が起動。

グラフィックやストーリーが壮大な最近のゲームであれば、自分で操作できるようになるまで開始から数十分を要するものもザラである。しかしこの作品では……

舞台である屋敷を主人公が訪れるまでのいきさつ等は完全に省略されており……

メチャクチャテンポよくプロローグが進行してゆく……

コミック本における「これまでのあらすじ」ですら、もう少し詳細なのではないかと思われるほど……

サッパリ状況が理解できぬまま、開始からものの3分で「フリープレイ状態」に! 個人的には断然こっちのほうが好き!

コマンドは「こうたい」「どうぐ」「はなす」「なかま」「しらべる」「せーぶ」「ぎぶあっぷ」の7種類。対象物の前で毎回画面を開き、「はなす」「しらべる」等を選択せねばアクションが起こせないという懐かしのシステムだ。

仲間は5人だがパーティーは3人編成らしく、残る2人は別行動。各自がひとつづつアイテムを所有しているっぽい。

スタート直後に早くも行き止まりが出現した。「しらべる」と、「ガラスの はへんが ある。とりのぞけないだろうか・・・・?」という意味深な表示が……フフフ!

数々のRPGをクリアしてきた私は瞬時に「そうじき」というアイテムを持った仲間がいる理由を理解した。「そうじき」で「ガラスのはへん」を取り除けば次の部屋へ進む道が開通だ!

扉がギギギ……と開く演出がバイオハザードっぽくてとても怖い。……いや待てよ、バイオハザードのほうが「スウィートホームっぽい」ということになるわけか。


・昔のゲームはこれくらい厳しかった

仲間が所有するアイテムは「ライター」「そうじき」「カメラ」「かぎ」「くすりばこ」の5つ。「かぎ」で扉を開け、ライターでロープを焼き……パーティー編成を変えつつ進むも、30分ほどで完全に手詰まり状態になってしまった。

マップ上にはいかにも意味のありげなアイテムが置かれている箇所がいくつか存在している。「これをこう使えば進めるだろう」というカラクリも理解しているのだが……


「アイテムの拾い方」が分からねぇ……!


「しらべる」「方向を変えてしらべる」「キャラを変えてしらべる」など、様々な方法を試したがアイテムは全然拾えない。「自分は全く見当違いのことをしているのかも」という不安がよぎる。

また、「ただの模様」と思っていたものが「血で書かれた文字」であると判明するなど、画面の荒さも手伝って疑心暗鬼は深まるばかりだ。そう、昔のゲームは簡単にヒントなんか教えちゃくれなかったのである。次に行く街をうっかり聞き逃したばかりに何度最初からやり直したことか……。

かくして試行錯誤のすえ「アイテムの前で “どうぐ” コマンドを押して空いたスロットを選択する」という答えにたどり着いたのは1時間後のことであった。ゲームの特徴として、この限られたスロットにどのアイテムを当てるかがかなり重要であるようだ。

ジャンルでいえば「謎解きホラーRPG」といったところだろうか……?


・う〜ん、怖い

いかんせんBIT数8のファミコン画面であるため、「本物みたいに怖い」わけでは当然ない。昔のホラーゲームでは、いかにして「恐怖の想像力を煽る演出ができたか」が名作と駄作の分かれ道だったように思う。

うまくすればその画面の荒さが武器になるのだ。

突如襲来する敵は「のろいのにんぎょう」や「ひとだま」「うじむし」など様々だが、個人的に最もゾッとしたのは「ひと」である。バケモノに混じってシレッと「ひと」が襲ってくるのメッチャコワない……?

とか構えてたら「バケモノっぽい普通の人間」だったり……

親切なバケモノが攻略のヒントを教えてくれたりもするぞ!

ただやみくもにバケモンが襲ってくるだけのゲームにはそのうち慣れる。プレイしながら漠然と不安な気持ちになったり、描かれていない部分までうっかり想像してしまうのが「いいホラーゲーム」なのだと思う。そして本作は確実に後者だ。


私のポリシーである「攻略サイトを見ない」を固守しつつ、最後までプレイしてみる所存だ。なお『スウィートホーム』は私が購入したことで、一時的にではあるがお店の在庫が切れてしまったぞ。欲しい人はこまめにチェックしてほしい!

・今回ご紹介した店舗の詳細データ

店名 レトロげーむキャンプ秋葉原店
住所 東京都千代田区外神田3-14-7 新末広ビルC
時間 11:00〜20:00
定休日 無休

Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

▼「主人公」ではなく「ぷれいやー」の名前変更という表記に無駄な戦慄を覚える

▼急にライトがおちてくるから注意な!

▼いすもとんでくるぞ!

▼たかしって誰だろう

▼「あきらめる」を選択してもイージーモードに変更などといった措置はなく、ただ最初からやり直しになるだけっぽい

日本、〒101-0021 東京都千代田区外神田3丁目14−7 新末広ビルC