文京区の湯島天神が、受験シーズン真っ盛りということで賑わっている。

学問の神様として知られる菅原道真が祀られており、各地から受験生が合格祈願に訪れるのだ。最近では通りすがりに「お礼参りに来た」という会話を耳にするようになった。合格しても感謝を忘れず神様にお礼を言うなんて、最近の若者もなかなか信心深いものである。

境内に入ってみるとお祭りさながらに露店がひしめいていた。わたあめ、たこ焼き、揚げまんじゅう…………ん? 数ある露店の中でひときわ異彩を放つベビーカステラ屋が……。

・店中ももクロだらけ

その屋台からは「ももいろクローバーZ」の楽曲がエンドレスに流れており、側面にはももクロの写真やステッカーが貼られ、内部は所狭しとももクログッズが並べられている。そして中央にピンクのロゴ入りキャップをかぶり、ピンクのタオルを首に巻き、ピンクの前掛けをして手際よくベビーカステラを焼いている男性が……。

これで「ももクロファンじゃないです」と言われたらもう誰も信じられない。私は湧き上がる好奇心を隠しつつ、屋台をガン見しながらいったん素通りした。


・ももクロの思い出

6年前、両国国技館で行われた大相撲のイベントにももクロがゲストで登場した。会場内はももクロファンで超満員だ。ももクロの出番はイベント中盤の2曲だけである。もし出番が終わった後ももクロファンが帰ってしまったら大惨事だと、大相撲ファンの私はハラハラしながら土俵を見つめていたのだ。

ところが実際にももクロの出番が終わってみると彼らは帰っちゃうどころか、力士たちに声援を送りはじめたのである。「おぉ〜」とどよめきも起こり、おそらくあまり見たことはなかったであろう大相撲を楽しんでくれている様子。というか、イベントを自分たちで盛り上げようとしているようにさえ見えた。

あの日から心に芽生えた「ももクロファン=いい人」という仮説を証明する絶好のチャンス到来! よし! 勇気を出して聞いてみた。

「あの……一応確認なんですけど、ももクロが好きなんですか?


・脱サラしてベビーカステラ屋に

こんなに目立つ風貌のわりに、店主は「目立ちたくない」と名前を教えてくれなかった。仮にA氏としておこう。

ピンクがイメージカラーのももクロメンバー・佐々木彩夏さんのファンだというA氏がももクロに出会ったのは9年前。場所はなんと、家電量販店内に設けられた小さなステージだったという。今の人気ぶりからは想像もつかないが、ももクロはそうやってコツコツとファンを増やしていった「叩き上げアイドル」であるらしい。知らなかった……!

その後「自分の好きなことをしたい」と脱サラして始めた屋台を軌道に乗せたA氏だったが、稼ぎどきの週末と重なるため、ももクロのライブになかなか行けなくなってしまった。

そこでA氏は自分の屋台をももクロ仕様に改造した。「ライブに行けないおわびにももクロの普及活動をしたい」との思いなのだそう。なるほど、それなら自分は目立ちたくないというのも納得がいく。

しかしファン心理としては、あまり人気者になってしまうのも嫌なのでは? とたずねると「ももクロファンにそんな人はいない」との答え。ももクロファンは「メンバーがこれまで頑張ってきたのを知って応援している人ばかり」なのだそうだ。

話をうかがっている間もひっきりなしに受験生とみられる客がやってくる。「勉強頑張ってるか? よし、オマケだ。頑張らない子にはあげないよ〜」と笑いながらオマケしまくるA氏。頑張る子びいきは、あながち冗談でもないのかもしれない。


・ファンの交流の場

ももクロの魅力は「何でも笑顔で乗り越えるところ」とA氏は語る。つらいことは何かとたずねると「ない」と即答するポジティブさはももクロイズムだろうか。

このスタイルで営業しているとやはり話しかけられることが多く、ファン同士の交流の輪が広がっているそうだ。

ももクロについての初歩的な質問に親身に答えてくれたA氏は「それはあのDVDを見れば分かるから」「ぜひあの曲を聴いて」と必ず付け加える。素で布教活動を行なっている様子である。

ももクロファンがいい人ばかりなのは、「頑張っているメンバーの顔に泥を塗るわけにいかない」という親心にも似た心理が根底にあるのであった。熱狂的ファンの悪質な行動が取り沙汰されることの多い昨今において、こんな素敵なファンを掴んでいるももクロってスゴイんじゃないだろうか?

そこまで言うなら聴いてみようかなぁ……と、ももクロに興味のなかった私ですらA氏イチオシの曲『オレンジノート』をその場でダウンロードしてしまったあたり、布教活動はバッチリ成果を上げているということになる。

受験シーズンの間はここ湯島天神で毎日営業しているそうなので、ももクロファンも受験生も訪れたら声をかけてみよう! 辛いことも笑顔で乗り越えるももクロイズムに勇気をもらえるかもしれない。

レシピの改良を重ねているというベビーカステラはいつも焼きたてを味わえる。

Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.