鬼や化け物を切ってきた源氏の重宝・兄弟太刀の「鬼切丸(別名・髭切)」と「薄緑丸(別名・膝丸)」。日本刀の付喪神(つくもがみ)を擬人化したゲーム『刀剣乱舞』にも「髭切」「膝丸」の名で兄弟として登場し、現在も幅広い世代から愛される名刀だ。

そんな「髭切」「膝丸」が2019年12月28日〜2020年1月26日の期間、春日大社にて珍しく兄弟揃って展示されているのだが──実際に見比べてみると、この兄弟に隠された「秘密」が見えてきてしまった。通常、二階展示室は撮影禁止だが、今回特別に取材させていただけたので、さっそくご紹介したい!

・伝説の兄弟

2019年12月28日〜2020年3月1日までの間、春日大社で開催されている『最古の日本刀の世界 安綱・古伯耆(やすつな・こほうき)展』(観覧料:一般1000円・大学高校生600円・中小学生400円)では、天下五剣「童子切」をはじめとした名刀の数々が展示されている。

今回展示されている「髭切」と「膝丸」はゲーム『刀剣乱舞』で兄弟揃ってキャラクター化されており、どちらも人気キャラとなっている。今回の展示では会場内に等身大パネルが置かれていた。

そんな兄弟太刀の一振り「髭切」は、『安綱・古伯耆展』の中心となっている刀工・安綱に打たれたものだ。

罪人で試し切りをした際、刃が当たっただけの髭まで切れて「髭切」の名を受け、その後に鬼の片腕を切ったことから「鬼切丸」となった。場合によっては同じ刀工・安綱の打った天下五剣「童子切」と混同した鬼退治の逸話が語られることもある。

そんな「髭切」と「膝丸」が兄弟とされているのは、平安時代に清和天皇の孫である源満仲(多田満仲)が刀工・安綱へ依頼し、「髭切」「膝丸」を打たせたという伝説から。「膝丸」を見てみると、確かに「髭切」と姿が似ている気がする。

「髭切」と兄弟なだけあり「膝丸」の名も罪人を試し切りした際に膝まで切れたことからつけられた。後に山蜘蛛という妖怪を切って「蜘蛛切」へ、さらにその後、源義経が「薄緑」名付け……と現在にいたるまで複数の名がつけられている。そんなところまで兄弟そっくり。

しかし、実は今回展示されている箱根神社の「膝丸」は刀工・安綱の作ではないと言われている。真の作者は天下五剣「三日月宗近」の作者と同じ、刀工・三条宗近だと考えられているようだ。じゃあ「髭切」とは兄弟じゃないのか!?

せっかく「髭切」と「膝丸」が同時に展示されているので、じっくり見比べてみたいと思う。まずは全体の姿から。どちらも平安後期頃の作刀だと言われているが、この頃の日本刀はだいたい似た姿をしている。「髭切」「膝丸」も例に漏れず、姿は似ている。

刃文を比べてみると……「髭切」はゆったりと不規則に波打っているのに対し、「膝丸」の刃文は規則的に波打ち、全体は静かな水面のように落ち着いている。

刃以外の部分、いわゆる刀の肌「地鉄」の部分を比較してみよう。「髭切」の方は安綱をはじめとした「古伯耆」ものによく見られる「肌立った」と言われるような、模様がくっきりと浮かび上がっている状態に見えるが、「膝丸」の方は模様よりも潤っているようなツヤが目立つ。

逸話の上では「髭切」「膝丸」のどちらも刀工・安綱に打たれていることになっていたが、これは確かに作者が違うかもしれない……。しかも「兄弟太刀」伝説に追い討ちをかけるように展示されていたのが、刀工・安綱の太刀「天光丸」だ。

なんと「天光丸」は「髭切」と同じ鉄を使って同じ刀工・安綱に打たれた、「髭切」の「雌雄の太刀」だというのだ。「兄弟」でなくなぜ「雌雄」なのかは謎。日本刀のオス・メスを区別するの、ヒヨコより難しそう。

オス・メスの区別はさておき、確かに「天光丸」は刃や地鉄の感じが「髭切」と似ている気がする。仮に「膝丸」と「天光丸」のどちらが「兄弟」かと問われれば、こちらを「兄弟」だと判断してしまうだろう。

一方で、「膝丸」の真の作者だと言われる三条宗近の子、と伝えられる刀工・有成の太刀「石切丸」を見てみると……

細かく整っていて潤いのある肌や、落ち着いた刃文が「膝丸」に似ている気がしてくる。だが、「膝丸」に銘がないため、本当に三条宗近の作刀なのかも不明なのだ。「髭切」と三条の刀、どちらに似ているかは、自身で確かめてみてほしい。

「髭切」「膝丸」に限らず、どんな名刀でも正確な来歴はタイムスリップでもしなければ分からないものがほとんど。名刀に囲まれ自分の目で実物をじっくりと眺めながら、名刀にまつわる逸話に思いを馳せるのも結構楽しいよ。

・兄弟揃っての展示は前期のみ

繰り返しになるが、「髭切」「膝丸」が揃って展示されるのは『安綱・古伯耆展』の前期展示(2019年12月28日〜2020年1月26日)のみ。数々の名刀とともに源氏の重宝「髭切」「膝丸」兄弟を見比べられる機会はとても貴重だ。気になった方は、ぜひ見に行ってみてほしい。

・今回紹介したイベントの詳細情報

イベント名 『最古の日本刀の世界 安綱・古伯耆展』
開催場所 春日大社国宝殿(〒630-8212 奈良県奈良市春日野町160)
開催期間 2019年12月28日(土)~2020年3月1日(日)
(※前期:12月28日(土)~1月26日(日)/後期:2月1日(土)~3月1日(日))
(※「鬼切丸(髭切)」「石切丸」の展示は前期のみ)
営業時間 10:00〜17:00(入館は16:30まで)
(※特別開館延長日 2020年2月3日(月)・2月8日(土)~2月14日(金)は 10:00~19:00 (入館は18:30まで))
休館日 2020年1月27日(月)~1月31日(金)
入場料 一般1000円・大学高校生600円・中小学生400円

参照元:安綱・古伯耆展公式Twitter
Report:伊達彩香
Photo:RocketNews24.
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▼刀剣乱舞のパネルは、色鮮やかに復元された「鼉太鼓(だだいこ)」のそばに置かれている。

▼刀剣乱舞の「髭切」。ゲーム内では「膝丸」の兄とされている。

▼刀剣乱舞の「膝丸」。兄である髭切とは仲良し兄弟として描かれている。

▼刀剣乱舞の「石切丸」。元になった「石切丸」も名刀ながら、この記事内ではあまり紹介できなかった。いつか所蔵元を取材出来たら嬉しいな。

▼グッズと図録をたくさん買えて満足です。

▼可愛い刀剣グッズもたくさんありました。

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