台風15号による深刻なダメージからおよそ1カ月。千葉の被害状況については、上陸から1カ月経過した今現在に至るまで、あらゆるメディアで報道されている。
そんな先日、某ゴルフ場の倒壊した鉄柱がまだ手付かずとなっていることを報じるニュースを眺めていたら、ちょっとした疑問がわいてきた。
「伊豆諸島ってどうなってんだろう」
・東京都の島々
伊豆諸島とは、最も大きな伊豆大島のほか、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島など。他にも小さなものがそこそこあるが無人島だ。静岡県の伊豆とは関係なく、これらの島は全て東京都に属している。
台風15号は、これらの島々のほとんどを直撃した後、本土に上陸して千葉に壊滅的なダメージを与えたのである。千葉があれだけやられたのだから、島も当然やられているだろう。
2019年9月18日付けの毎日新聞の記事によると、17日時点での東京都における住宅の損壊の9割近くが島々のものだったとか。また大島の都立大島海洋国際高校では、校舎の窓ガラスが割れ、すっかりブルーシートで覆われている様子が報じられている。
本土の千葉が、約1カ月経ってもまだ復旧できていないのだ。はるかに色々と不便であろう離島ではなおのことでは? どうなっているのか気になったものの……シンプルに遠いからだろう。ググっても現状が出てこない。
これは見に行くしかないな……ということで行ってきたわけである。なお、ほぼ全ての島でそれなりに被害は出ていたようだが、本記事では筆者の予算と時間的な都合で、最も近い伊豆大島のみをレポートとなっている。
・元町港に上陸
ということで、2019年10月3日の昼過ぎに伊豆大島に到着。式根島や八丈島にはプライベートで行ったことがあったものの、伊豆大島は初めてだった。
この日、船が入港したのはいくつかある港の中でも伊豆半島に面した元町(もとまち)港。船を降りて島を眺めてみると、なんというか、実にのどか。天気はよく、波も穏やかだ。平日の昼間なのだが、釣りをしてる人もちらほら。
あれ、もしかして被害とかはもう何とかなってる感じ? と思ったものの、船着場から島内に踏み込むと、いきなり窓が全面ブルーシート張りな土産物屋や……
屋根一面がブルーシート張りなお寿司屋さんなどが。本土の東京都内であれば、よほど巨大な建物でもないかぎり瓦や窓の修理に1カ月かかることは無いだろう。やはり島ではその辺もなかなか都合がつかないと思われる。
その後、元町港周辺を歩いてウロウロしてみたものの、ぶっちゃけこのような状態の建物はそんなに多くない。目に見えるブルーシート付きの家はほんの数件。
しかし、先述の毎日新聞の報道からすると、損壊した建物の数はこんなものではないはず。その日とった宿の店主に詳しく聞いてみると「島の南側が酷かった」とのこと。
筆者が上陸した元町港は島の北側なのだが、どちらかといえば南にある波浮(はぶ)港側の建物がやられたらしい。ガラスが割れたという高校もそちら側だとか。その日はもう暗くなってしまったので、波浮港行きは翌日に持ち越すことに。
・暴風雨
そして迎えた10月4日。いい感じの天気だった昨日とはうって変わり、島はめちゃくちゃ強い風雨に晒されていた。ちょうどこの日、台風18号が温帯低気圧に変わったのだが、この悪天候はその影響によるものだ。
本土では高知県の冠水被害などが大きく報じられていたと思うが、伊豆大島もかなりの暴風雨に晒されていたのである。昨日見たお寿司屋さんの屋根のブルーシートも崩壊し、ともすれば吹き飛ばされてしまいそうな状態。
昨日降りたった元町港は完全に使用不能。上陸直後に筆者が立って島を眺めていた場所は、堤防を乗り越えてくる波に洗われまくっている。そんな状況だが、とりあえず波浮港へバスで向かうことに。
・波浮港へ
いざ波浮港についてみると……港には滞在できそうな建物があるのかどうかよくわからない。しかも圧倒的風雨と波で身の危険を感じたので、高台に移動。ちなみに、この時筆者がいた高台とは「波浮港見晴台」という伊豆大島内における景勝地の一つ。
このそばにお爺さんが切り盛りしている休息所があり、しばし雨宿りさせて頂くことに。その時に店内にいた地域住民の方などに台風について聞くと、皆口をそろえて「あんなのは初めて」と仰っていた。
そして、やはり波浮港近辺では屋根が飛ばされた家が多くあるとも。修理については、島に大工さんの数が足りないため、いつになるかわからないそう。中には修理できるまでは本土の親戚の家に世話になる家庭もあるとか。
・高校は今
色々と話を聞いているうちに、午前10時ごろには雨が止んで晴れ間が見えてきた。しかし相変わらず風はめちゃくちゃ強い。ここで休息所を出て、報道にも出ていた都立大島海洋国際高校を取材しに向かった。
先の報道時には一面ブルーシート張りだった校舎だが、この時にはに外されており、ガラスがなくなっている様子を見ることが出来た。どうやら報道された後も立て続けに襲来した台風などの影響で、早々にシートを外してしまったのだそう。
ブルーシートなどいくら張っておいても、面積が大きければ大きいほど風の影響を強く受けるもの。台風ともなれば引きちぎれて飛んでいってしまうだろうし、いっそ外すのが正解だろう。
割れたガラスなどは既に先生方の手により撤去済み。外から見ただけであれば、窓ガラスさえ用意すれば何とでもなりそうではある。だが、実は内部もかなり深刻なダメージを受けているのだ。
まず案内していただいたのは一番被害が大きい3階。教室入り口のドアには「天井が落ちそう 危険」と読める張り紙が。
問題の天井を見上げてみると、見事に穴だらけ。
これは何も屋上から雨漏りして壊れたとかそういうのではない。窓から吹き込んだ風によって上に突き上げられる形で破壊されたのだとか。
等間隔に並んだ穴は、天井の石膏ボードを固定している金具によるものだ。下から圧倒的な風圧で押し上げられた結果、金具の部分が貫通してしまったというわけ。
ちなみに、床は朝の暴風雨で完全に水浸しになっていた。この様子では各種電気系統も完全にやられているだろう。先生も、危険なので全部チェックするまでは通電させないようにしていると仰っていた。
ガラスが割れた原因については、風圧や、校舎と海の間の防風林から飛ばされてきた折れた枝など色々考えられるが、興味深いものを見せていただいた。
それが、ガラスに点々と入った小さなヒビ。
これは恐らく風で飛ばされてきた、スコリアという火山噴出物によるものではないか……とのこと。実は校舎内外のいたるところに黒い小石のようなものが散らばっていて、ともすればそういう仕様であるかのように思えるレベル。
しかしこれなどは元々あったわけではないのだとか。後で紹介するが、高校と海の間にはトウシキ遊泳場やトウシキキャンプ場というエリアがあり、そこではたくさん落ちているものだ。
どうやらそのあたりから台風によって吹き飛ばされたスコリアが、まるでショットガンのごとく校舎を襲ったのではないか……というのである。まあ実際に学校の敷地内に落ちまくっているし、校舎内部にも転がっていたので恐らく正解なのだろう。
修理完了の見通しについては、1カ月経過した現在もまだ未定だそうだ。都立高校なので管轄は東京都。修理の予算も東京都持ちということで、資材や人員は本土の方から調達するそうである。
他にも、窓ガラスに綺麗なものと年季の入ったものが混在している校舎があり、それは部分的に割れ、修理した箇所なのだとか。また、一部屋根が剥がれてしまっているところもあり、割と全体的にダメージを負っているようだった。
費用は都、人員や資材は本土からということであれば、自力でやらなければならない民間施設や、市町村の管轄区域などよりも色々と融通が利くとは思う。
何より東京都は全都道府県中で最も高収入なので、校舎1棟分の修理費程度なんとでもなるだろう。しかし、本土でも今はオリンピック関連で深刻な人手不足。見通しが立たないのは人手の問題では……と思うが、どうなのだろう。
学校の外で見かけた生徒たちは、見るからにアヤシイおっさんな筆者にも挨拶をしてくれるピュアな女子生徒や、カルピスに牛乳を入れるか否かで果てしなく盛り上がっているピュアな男子グループなど、割と平常運転な様子だった。
・トウシギキャンプ場でスコリアに撃たれる
学校を見せて頂いた後で、飛んできたスコリアの出所と目されるトウシギキャンプ場に行ってみることに。ちなみにこのキャンプ場は、台風の被害で受付を停止中。
といっても別に柵などがあるわけでもなくオープンな感じ。行ってみると、さっそく屋根が吹き飛んだトイレを発見。また、はっきりとは分からないが、調理場的な場所に何か建築物があったかのような痕跡もあった。もしかしたら丸ごと倒壊したのかもしれない。
そのまま海の方に進んでいくと、そこには断崖絶壁と、青すぎる海による圧倒的絶景が広がっていた。島の中央部方面は、山に雲がかかっているせいで曇り気味だが、海側は完全に晴れ渡っている。
そして下を見ると……なるほど、校舎に入り込んでいたものは小さなものばかりだったが、こちらでは大小さまざまなサイズのスコリアが。
軽石ほどではないが、見た目よりも圧倒的に軽くて普通に風で飛ぶ。というか、この日の風は先に述べた通りめちゃくちゃ強く、正直立ってはいられないほどの強風。
筆者も四つんばい状態でカメラを構えているのだが……海側に対してまっすぐにカメラを向けると、容赦なく波しぶきと共にスコリアが飛びまくってきてレンズがやられてしまいそう。
例えるなら、サバイバルゲーム中にエアガンで撃たれまくっているのと大差ない状況だ。デカい塊が飛ぶほどではないので大怪我はしないだろうが、いつカメラのレンズが割れるかと気が気ではなかった。
海面から20メートルくらいは高さがあるはずなのだが、そんなの関係ないレベルで波とスコリアが海からぶち上がってくる。校舎までは300メートルくらいだそうだが、屋根を飛ばしてガラスを割るレベルの強風なら余裕で射程距離内だろう。
・崩壊したお店
こうしてキャンプ場を後にし、海沿いに元町港の方へ歩いていくと、途中でとんでもないことになっているお店を発見。「タイガー」という酒屋さんなのだが、空爆にでもあったんじゃないかというレベルで店が崩壊している。
近くに店主の方がいらっしゃったので、特別に中を見せて頂けることに。入ってみると、完全に中から空が見える状態。各種配線はむき出しで垂れ下がり、屋根どころか屋内の天井すら残っていない。
お店の方は「どこでも好きに撮っていって~」などと、明るい口調で言ってくれたが……部外者のこっちがむしろ深刻な気持ちになるレベルの有様である。
話を聞いてみると、さっさと取り壊したいものの、保険の関係でそれも出来ないのだとか。今は地下の在庫保管質的な場所で、まだ売れるものだけを希望者に売っているそう。
幸い近くに空いている場所があり、書類関連が整い次第そちらでまた商売を再開するつもりだという。状況の悲惨さに対して、かなり前向きなエネルギーに満ちている様子はとても格好良く思えた。
同じ店名で再開するのかは知らないが、このお店のある場所は「差木地みなとまち広場」というちょっとした景色のいい展望台的な感じになっている場所の近く。
今後伊豆大島に訪れた時に、近隣で酒屋がオープンしていたら恐らくは「タイガー」さんだろう。滞在中に飲む酒はここで調達することで応援してあげたい。
・島に行こう
とまあ限られた範囲ではあるが、台風15号から1カ月経過した時点での伊豆大島はこんな状況だった。これは島の方に聞いたのだが、大島や式根島などでは、台風直後は来島を控えるよう通達を出していたらしい。各種サービス施設がダウンしていたからだ。
しかし、今となっては全ての島で観光客を受け入れる態勢が復活しつつある。今回の行程で何人もの島の方にお話を伺ったが、「今は島に来てくれるのが一番助かる」というのが共通見解だった。
また別の記事にて紹介する予定だが、今回訪れた伊豆大島もかなり素敵なところだったし、実はちょっとお得に来島出来る方法もあるのだ。
東京都沿岸部からほんの数時間で行けて、大体の島は火山を有するために温泉が湧き出ている。そしてもちろん魚がウマいという、なかなかにナイスな場所だ。どこかの休みで伊豆諸島などいかがだろう。
参照元:毎日新聞
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.
▼お寿司屋さんのブルーシート、「タイガー」さんを取材後に元町港に戻ってみると、いよいよ吹き飛びそうだった。
▼外された高校のブルーシート
▼校舎の向かいは部活棟。向こう側の窓も割れているそう。ブルーシートが透けて見えるかと。
▼今回目にしたなかで一番立派な建物は、警視庁大島警察署。東京都なので警視庁。ここだけ見ると、23区内と言っても通じそう。
▼穏やかな状態の元町港はこう。10月4日の荒れ具合の凄さがお分かりいただけるだろうか。